「日銀の新総裁は誰か」より注目すべきたった1つのこと
日本銀行の正副総裁の任期が迫ってきた。「日銀の新総裁は誰か」に世間の注目が集まっているが、国民や投資家が注目すべきポイントは別にあると筆者は考えている。それは、日銀の新体制が金融緩和の見直しを「どのくらいのスピードで行うか」を探ることだ。(経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元) ● 日銀正副総裁人事の 真の注目点とは? 「岸田リスク本番」だと筆者が恐れているイベントがいよいよやって来る。 日本銀行の正副総裁人事が発表されるタイミングが近づいている。現在の黒田東彦総裁は4月8日まで、雨宮正佳副総裁と若田部昌澄副総裁の任期は3月19日までと、正副総裁の任期にずれがある。ただ、総裁を決めずに副総裁の人事だけが発表されるのも妙なので、3人同時に発表されるのではないか。時期的に2月中の発表が予想されるが、1月に前倒しされる可能性もあるのだろうか。 正副総裁を含めて、日銀の金融政策を決定する政策委員会の審議委員の人事は、政府から人事案の提示があって、国会の同意によって決定される国会同意人事だ。事実上、時の首相が任命する。 「岸田リスク」とは、株式市場関係者の間では岸田文雄首相の発言などによって株価が急落するような事態を指す。過去に金融所得課税の見直し(増税)の検討や自社株買いに対する規制の検討などについて発言して株価が一時的に下落したことがある。しかし、日銀総裁人事は、これらとは影響の桁が違う。 日銀の総裁と副総裁の任期は5年だ。つまり、正副総裁人事は将来5年にわたって金融政策に大きな影響を与える「人事をもって行うフォワードガイダンス」なのだ。フォワードガイダンスとは、中央銀行が政策の決定事項やトップの発言などを通じて将来の金融政策行動を半ば約束・予約する政策手段のことだが、この人事は将来の金融政策の大方針に対する意思表示とみることができる。
- 日銀の正副総裁人事が 「岸田リスク」になり得る理由 これが岸田首相によって行われることがリスクになり得ると考えるのは、過去の自民党総裁選時などに、岸田首相が安倍晋三元首相のいわゆるアベノミクスへの見直し方針を掲げていたことがあるからだ。その後、首相就任時にはマーケットへの影響を考えてか、金融政策の連続性を尊重する方針を打ち出したが、岸田首相の本音は金融緩和方針の見直しの方にあるように見える。 また、岸田氏は時々の世間の評判に影響されやすいが、昨年の円安に関して「悪い円安論」がやかましく、黒田総裁が主犯であるかのような論調が少なからず存在した。そのことが、彼の決断に悪影響を与える可能性がある。 日銀の金融政策は日本経済全体に大きく関わる問題なので、「投資家としては」といった狭い影響範囲からだけ考えるべき問題ではない。それでも、例えば投資家としては、アベノミクスの金融緩和を背景に上昇してきた株価や、内外の金融政策の差によって大きな影響を受けていると円の為替レートに対して、日銀の正副総裁人事は、その時直ちに与える影響が大きい可能性がある。また、その後に長期にわたって影響する可能性も大きい注目すべきイベントである。 ● 問題は政策見直しの 「スピード」 次期日銀総裁は誰か? 残念ながら現時点では分からない。現在名前が挙がっているのは日銀プロパー出身者や財務省関係者、あるいは一種のメッセージ効果が伴う女性などだ。ただ、こうした「世間の噂に上る総裁候補」は、いずれも積極的な金融緩和論者である現在の黒田総裁の路線を、相対的には金融引き締め方向に修正することを示唆する人物たちに見える。 失礼ながら、誰でも大差はない。任命者の意図に従い、組織の空気に逆らわない、凡庸な大人であり組織人ではなかろうか。 現時点では、岸田首相が指名する日銀の次期総裁および新体制は「金融緩和の見直し」を真意とするものであると決め打ちしていいだろう。黒田現総裁の金融緩和政策に(心から)賛成するような金融緩和積極論者は「リフレ派」と呼ばれるが、リフレ派の人物が総裁に任命されることはないだろう。