「第3の矢」こそ経済成長の決め手 「破壊」でも「守成」でもなく…「秀吉」のような新しい世の中を設計、実現する勇気が必要
【逃げるな!岸田政権】
岸田文雄首相は8月末、「次世代型原発の開発・建設検討」や、「既存原発の運転期間延長」について、年末に具体的な結論を出すと明言した。東京電力福島第1原発事故で、新増設を凍結した方針の大転換だが、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、世界的なエネルギー高騰が直撃して、世論の風向きが変わるのを待っての後追いだ。
新型コロナ対策では、オミクロン株対応のワクチンの接種を前倒しすると8月31日に表明した。菅義偉前内閣が、ワクチン接種の拡大を進めたのに対し、岸田内閣は希望者に接種するが、希望しない人への接種は強く呼びかけなかった。ワクチン接種者の特典も設けず、子供への接種もおっかなびっくりだった。
これが「第7波」で死者が多く出た原因の1つとされる。薬剤師などにワクチンの接種を認めないので、流行期に医師がワクチン接種と治療と両方するので滞っている。
日本の経済社会は、明治維新ですべてぶっ壊して欧米最新モデルに置き換えられた。戦時体制と戦後改革で刷新されたが、あとは常に微修正だ。アベノミクスもやらないよりはいいが、金融・財政という政府の小手先でできることに頼って経済成長しようと安直に流れた。
私は日本経済の成長を阻んでいるのは、「第3の矢」でも問題視された「少子化」「教育改革の遅れによる国際化やIT化に必要な人材供給不足」「後ろ向きのインフラ投資」「医学部への優秀な人材の集中」「東京一極集中」「人生や生活についての向上心低下」「起業や転職意欲の不足」などだと思う。
安倍晋三元内閣は改革意欲はあったが、例えば、大学入学共通テストに、英語4技能(読む、聞く、話す、書く)を重視した民間試験を導入することすら腰砕けになった。英会話が苦手な教師が反対して、「教育界の守旧派」が天王山と位置付けてスクラムを組んだ。
私は最近、『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス)という豊臣秀吉の伝記を書いた。令和の日本の「改革」には、織田信長的な「破壊」でも、徳川家康的な「守成」でもなく、秀吉のような新しい世の中を設計し、断固実現する勇気こそ必要だと知ってもらうのが狙いだ。
岸田首相は昨年10月の所信表明演説で、「早く行きたければ1人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め」と語ったが、本人に遠くまで行く断固としたビジョンと意思がなければ、遠くまで行くことなど不可能なのである。
第2次岸田改造内閣の布陣は、補佐役に徹して最大派閥・安倍派との調整も担う松野博一官房長官を中心に安定感がある。高市早苗氏と河野太郎氏という、突破力がある政治家に経済安全保障とデジタルを担当させるなど、よく工夫されている。
ぜひ、目に見える成果を期待したい。
=おわり
■八幡和郎(やわた・かずお) 1951年、滋賀県生まれ。東大法学部卒業後、通産省入省。フランス国立行政学院(ENA)留学。大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任し、退官。作家、評論家として新聞やテレビで活躍。徳島文理大学教授。著書・共著に『家系図でわかる 日本の上流階級』(清談社)、『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス)、『安倍さんはなぜリベラルに憎まれたのか 地球儀を俯瞰した世界最高の政治家』(同)など多数。