「米国経済の軟着陸は困難」 FRB強硬姿勢

2022年09月30日

米国のFRBは9月21日、連邦公開市場操作委員会(FOMC)で0.75%の利上げを決定した。  (FFレート)は2.25~2.5%から3.0~3.25%へと引き上げられた。政策金利水準は今年3月にはほぼゼロであったのが半年で中立金利(2.5%程度)を上回る水準まで引き上げたわけだ。  とくに7月以降の三会合ではいずれも0.75%の大幅引き上げを決めた。このような急ピッチでの利上げはボルカー議長(当時)がインフレ撲滅のために利上げにまい進した1981年以来のことだ。  足許でもインフレが落ち着く気配は全くない。8月の消費者物価指数は前年比8.2%と事前予想(8.0%)を上回った。また振れの大きいエネルギーと食料を除いたコア指数では7月の5.9%を0.6%上回る6.3%となった。  今回の利上げで、米国の連邦準備制度(FRB)が利上げでインフレを抑制しつつ、米国経済が大きな景気後退に陥らないで軟着陸(ソフトランディング)できるという望みは、ほぼ消えたと言ってよい。  パウエル議長自身、FOMC後の記者会見で「景気後退の確率は分からないが、経済成長が鈍化するのはほぼ間違いなく」「景気のソフトランディングは非常に困難だ」と言明している。市場筋の中にはインフレ目標値の2%に下げることにこだわると、景気後退を招くのでインフレ率3~4%の線で妥協してくれないか、との「要望」もあったが、パウエル議長はこれを一蹴した形だ。  注目されたFOMCメンバーによる先行きの金利見通しを示した「ドット・チャート」(中央値)では大幅な金利上昇見通しとなった。22年末が4.4%と前回6月見通し(3.4%)から1%引き上げられたほか、23年末も4.6%と前回見通し(3.8%)から大きく引き上げられた。24年末で3.9%と漸く利下げが視野に入ってくる見通しだ。来年には利下げに転換すると見ていた一部の市場筋の見方を完全に打ち消した形である。  他の見通しを見ても実質GDPが22年で0.2%、23年で1.2%とトレンド成長率(1.8%)を大きく下回る見通しだ。このような景気の悪化から失業率見通しも23年末で4.4%と前回見通し(3.9%)を上回った。  パウエル議長の記者会見からうかがえたのは、ジャクソンホールでのスピーチを踏襲して、あくまでもインフレ抑制を最優先に金融政策運営に取り組む姿勢が全く揺るがないことである。  かつてボルカー議長が、1970年代のバーンズ議長、ミラー議長の下で米国のインフレ率ならびに将来のインフレ期待値が大きく上昇した後に登場して市場金利の20%越えを容認する金融引き締めを実施した。  パウエル議長は、このようにボルカー議長が米国の景気後退を招いた一方で徹底してインフレと闘ってこれを撲滅した姿勢を見倣っているように思われる。  パウエル議長が記者会見で「仕事を成し遂げたと確信するまで(金融引き締めを)やり続ける(We will keep it until we're confident the job is done)」とのジャクソンホールでも使った言葉にその強い姿勢が裏付けられる。  このようなFRBのインフレ抑制最優先のスタンスをみて、債券市場では金融政策スタンスを最もよく反映する2年物国債が15年ぶりの高水準となる4.1%を付けた。そのほか、5年物が3.7%、10年物、30年物も3.5%台と強含んでいる。  株式市場でもS&P500は21日に1.7%の下落をみて、これで年初来の通算下落率は20.5%と弱気相場入りを示す下落幅20%を上回るに至った。ちなみにS&P500の銘柄のうち90%以上が下落、年間最安値を記録する銘柄も多くみられた。さらにテック株が集中するナスダックも1.8%の下落となった。  為替市場でも22日、円相場が24年ぶりに一時145円を付けるなど、ドル全面高となった。  株式市場では、マエストロと呼ばれたグリーンスパン議長を筆頭に株式市場が不振に陥りそうな場合にはFRBが救いの手を差し伸べてくれるとの期待が長らく残っていた。しかし、さすがにパウエル議長の強硬スタンスを前に急速に悲観色が強まっているようにみられ、ウォール街では景気後退シナリオへの準備を急ぐことになろう。

俵 一郎(国際金融専門家)

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