【日銀の金融政策】 このままでは「悪い円安」もっと進む? 利上げしない本当の理由は、日銀の出口戦略、つまり金融政策の正常化の困難さにある
このままでは「悪い円安」もっと進む? その理由
6/11(土) 9:30配信
「このままでは日本にとって望ましくない水準まで円安が進む可能性がある」。
日本総合研究所の河村小百合主席研究員は「当面の最大のリスクは円安」という。
財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の委員も務めるエコノミストが円相場と
日銀の金融政策に危機感を募らせる理由とは?【毎日新聞経済プレミア】
――円相場は急激な円安が進んでいますが、現状をどう見ますか。
◆為替の変動には財政などいろんな要因がありますが、今の円安は明らかに内外金利差が原因だと思います。
日米の5年もの国債の金利差と円ドル・レートの推移をグラフにすると、昨年以降はぴったり一致します。
1ドル=130円台の円安になると、輸入物価が上昇し、日本経済に与える影響は無視できません。
さらに過度な円安が進み、もしも1ドル=140円台や150円台になったら、さすがに影響は大きいだろうと思います。
当面の最大のリスクは円安です。
◇「低インフレ・低金利」の終えん
――そこまで円安が進む可能性はあるのでしょうか。
◆新型コロナウイルスの感染拡大を経て、昨夏ごろから世界経済はインフレ局面に転換しました。
そこへロシアのウクライナ侵攻が重なって資源価格が高騰し、
それまでの「低インフレ・低金利」の時代は過去のものになりつつあります。
米国は金融政策の正常化を急いでいますが、安定的にインフレを抑えられるかというと、どうもそういう感じではありません。
日銀が指定した利回りで国債を無制限に買い入れる「指し値オペ」などを行えば、
ますます日米の金利差が開き、多分もっと円安が進むだろうと思います。
――今の円安は「悪い円安」ということですね。
◆そうです。物価上昇につながりかねない円安です。
このままでは、日本にとってあまり望ましくない、そうはなってほしくない水準まで円安が進む可能性があります。
円安に拍車がかかれば、日本から資本流出が進む可能性もあります。
2008年のリーマン・ショック後のアイスランドや、欧州債務危機時のギリシャがそうでした。
その国の通貨が下がったり、財政運営が崩れたりするパターンになると、
みんなが「もう危ない」と思い、その国からお金を外へ逃がそうとします。
◇「利上げで一番困るのは日銀」
――日銀の黒田東彦総裁は円安が日本経済へ与える影響について「プラスという判断は変えていない」と発言しています。
足元の物価上昇も資源高などコスト増によるもので、資源高が落ち着けば物価は下落するとして、
金融緩和を維持する姿勢を変えていません。
◆インフレを防ぐため、海外の中央銀行は金融政策の正常化を進めています。
これまで日銀はアベノミクスの下、デフレ脱却を目指した異次元緩和で大量の国債を購入し、
事実上の「財政ファイナンス」をやってきました。
低インフレ・低金利の時代ならよかったかもしれません。
しかし、ウクライナ侵攻で物価が上昇しているのに、日銀がかたくなに金融緩和を続けているのは、
海外の市場関係者も不思議に思っているはずです。
日銀はこの局面でも「円安がよい」とか「利上げの必要はない」とか、そんな議論ばかりしていますが、
利上げしない本当の理由は、日銀の出口戦略、つまり金融政策の正常化の困難さにあるのだと思います。
利上げで一番困るのは日銀だからです。【聞き手・川口雅浩】
◇河村小百合(かわむら・さゆり)さん略歴
1964年神奈川県生まれ。88年京都大学法学部卒業、日銀入行。91年日本総合研究所入社。2019年から現職。
研究テーマは金融、財政運営、公共政策など。財政制度等審議会財政制度分科会の臨時委員も務める。
著書に「中央銀行の危険な賭け 異次元緩和と日本の行方」などがある。
毎日新聞 https://news.yahoo.co.jp/articles/76d1ac6a243ae1ba5296589b6e12f645478eba73