アメリカで「スタグフレーション」の気配が濃厚に…日本にとって「最悪の展開」かもしれない
米国経済の失速が懸念され始めたことで、為替が円高に進んでいる。急速な円安は日本経済にとってデメリットが大きく、円安の是正は一見、良いことのように思えるが、話はそう単純ではない。景気失速の原因がインフレだった場合、米国経済がスタグフレーションに陥り、金利を下げられない可能性が出てくる。そうなった場合、日米の金利差は縮小されず、日本企業の業績がさらに悪化するというスパイラルにも陥りかねない。 【写真】125万人が忘れている「申請しないともらえない年金」をご存知ですか
住宅失速の原因は金利なのか?
〔PHOTO〕iStock
これまでの米国経済は、インフレが懸念されながらも何とか成長を続けてきた。自動車産業を中心に日本メーカーの主戦場は米国市場であり、米国経済が失速すると、ただでさえ落ち込んでいた日本経済は目も当てられない状況に陥る。ところが、頼みの綱だった米国経済に徐々に暗雲がたれ込み始めている。 米商務省が2022年7月28日に発表した4~6月期の実質GDP(国内総生産)は前期比0.9%のマイナス(季節調整済み、年率換算)と、2四半期連続のマイナス成長となった(1~3月期の成長率はマイナス1.6%)。 マイナス成長が2期連続するとテクニカルリセッションとされ、機械的には景気後退局面との解釈になる。この結果を受けて、米国経済のリセッション入りについて議論が行われているのだが、今の局面においてこの議論はあまり意味をなさないと思って良いだろう。 今回の失速がインフレによるものだった場合、マイナス成長に転落したということは、米国経済がスタグフレーションの一歩手前に位置していることを意味する。もしそうなら、リセッションかどうか悠長に議論している場合ではなくなってしまう。 米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、近年、顕著となっているインフレに対処するため、金利の引き上げを行ってきた。金利の引き上げ、あるいは金融の引き締めというのは、あえて不景気にすることでインフレを抑制する政策であり、景気にマイナスの影響があることは当初から想定済みである。重要なのは、この程度の金利引き上げでインフレを抑制できるのか、それとも、インフレがまだまだ進むのかという点であって、リセッション入りの有無ではない。 4~6月期のGDPについてより詳しく見ると、住宅投資がマイナス14%となっており、これが大きく足を引っ張った。住宅投資がマイナスになったのは、直接的には金利上昇の影響が大きいと考えられるが、それだけが原因だろうか。米国の住宅ローンは多くが30年の固定ローンとなっており、直近の住宅ローン金利は6%に近づいている。確かに金利は高めだが、5%台の水準でここまでの失速というのは少々考えづらい。 米国の不動産価格は、このところ急上昇しており、米S&Pダウ・ジョーンズ・インディシーズが発表した5月のS&Pコアロジック・ケース・シラー指数は前年同月比で19.7%もの上昇となった。2022年に入ってからは、上昇ペースがさらに加速しており、下落が顕著となっているダウ平均株価とは正反対の動きを見せている。 住宅の失速は金利上昇よりも、価格高騰による影響が大きいと考えた方が自然だろう。もし、住宅失速の根本的な理由がインフレであるならば、これは単なるリセッション入りという問題では片付けられない。 今回のインフレは、原油価格や食糧価格の高騰、ロシアによるウクライナ侵攻など供給制限が大きく絡んでおり、コストプッシュ・インフレという要素が強い。さらに言えば、量的緩和策による大量のマネー供給という貨幣的要因もあり、70年代のインフレと状況がよく似ている(70年代当時もマネーが過剰供給されていた)。もしそうだとすると、米国の景気が多少、後退したからといってインフレが収束するとは限らないとの解釈が成立する。