インフレ時代の到来に合わせた投資戦略の見直しは必要か:米国で高まる6対4の分散投資の有効性議論
米国金融市場では、伝統的な投資戦略である株式60%・債券40%の6対4の分散投資(ポートフォリオ)の有効性が、大きな議論の的となっている。 資金を6対4の割合で株式と債券に振り向ける分散投資は、主に株式投資で利益を上げる一方、債券を保有することで、株価下落時のリスクヘッジをする、との考え方に基づく。株式と比べて債券は価格変動リスクが小さい。また、景気情勢が悪化して株価が下落する局面では、しばしば金利は低下して債券価格が上昇する傾向があることから、株価下落による損失を穴埋めすることができる。 この投資戦略の有効性がにわかに議論されるようになったのは、6対4の分散投資が、2022年は大きな損失を出したからだ。昨年は株価が大きく下げ、同時に債券価格も下落したのである。ダウ・ジョーンズ米国総合株式市場指数のリターンは、配当込みでマイナス19.5%となった。一方、ICE BofA米国債指数はマイナス12.9%となった。 米金融大手ゴールドマン・サックスの計算によると、1926年以降で、米国の株式と債券が12か月の間に共に損失を出した期間は、全体のわずか2%に留まる。債券投資の対象を長期債とした場合には、損失はもっと広がる。 米サンタクララ大学のエドワード・マッカリー名誉教授によると、長期債投資の場合、6対4の分散投資の昨年のリターンは、1792年以来4番目の悪さだったという。 昨年、6対4の分散投資が失敗したのは、債券価格の下落があまりにも急激だったためだ。ティー・ロウ・プライス・グループによれば、6対4の分散投資で昨年のような極端な損失が起こる確率は、130年に一度だという。
インフレヘッジを新たな投資戦略に組み込む動き
米資産運用大手のブラックロックは、6対4の分散投資が昨年に大きな損失を出したことは、この投資戦略が既に時代遅れである証左だとしている。これに対してゴールドマン・サックスは、どんな投資戦略でも損失は避けられないものだとして、6対4の分散投資が有効な戦略であることは変わらないとしている。こうして米国では、6対4の分散投資の有効性についての議論が、賛否双方で高まっている。 ブラックロックが、6対4の分散投資を時代遅れとしているのは、経済環境に大きな構造変化が起こったと考えているためだ。それは、グレート・モデレーション(大いなる安定)が終り、世界は新たなインフレの時代へ移行したとの考え方である。1980年初頭以来、インフレ率は低下傾向を辿り、それに合わせて金利も低下傾向を辿った。その結果、債券投資は安定的なリターンを上げ続けたのである。そのもとでは、債券を相当程度組み込んだポートフォリオが妥当であった。 しかし、米国あるいは世界が再びインフレ期に入ったのであれば、債券投資でリターンをあげることは従来よりも難しくなる。また、景気減速時にも今までのように金利が大きく低下、債券価格が大きく上昇して、株式投資の損失を穴埋めすることは難しくなる。6対4の分散投資が時代遅れとなり、その有効性が低下したと主張する向きは、このように考えているのではないか。 そして、従来よりも債券投資の比率を低下させ、株式投資以外に、インフレから金融資産の実質的な価値の低下を守ることでできる金融商品、つまりインフレヘッジとなる商品を新たにポートフォリオに組み入れていく、との考えが持たれている。代表的なインフレヘッジの商品は、インフレ連動債、コモディティなどだろう。