ウクライナ侵攻半年の世界経済:景気を犠牲にした物価安定の回復とロシア経済・戦争継続への逆風が視野に
今年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻から、間もなく半年が経とうとしている。ウクライナでの戦闘状態は当初の予想を覆して長期化し、現状では膠着感が強まってきている。そうしたなか、世界経済の先行きについては、侵攻から半年が経ってますます不透明感が強まっている。 ウクライナ侵攻が世界経済に与える打撃は、戦争そのものよりも、先進国による対ロシア制裁措置がロシアのエネルギー供給を制約し、エネルギー価格の高騰をもたらしたこと、それを受けて米連邦準備制度理事会(FRB)が急速な利上げ(政策金利引き上げ)を実施して、さらに他国の利上げを誘発しているところが大きい。 足元では深刻なエネルギー不足問題や南欧の財政問題などを抱えるユーロ圏でも、7月に欧州中央銀行(ECB)が事前予想を上回る大きな幅での政策金利の引き上げを決めた。 このように、米国の急速な金融引き締め姿勢が他国にも波及している背景には、為替動向が深く関係している。日本を除く多くの国が、物価高を助長してしまう自国通貨安を何とか避けたいと考えている。そうした中、米国で急速な利上げ(政策金利引き上げ)が行われると、ドル全面高が進み、他国は対ドルでの自国通貨安に見舞われる。それを回避するために、多くの国がこぞって急速な金融引き締めに乗り出し、自国通貨を引き上げて他国に物価圧力を押し付ける競争をしているのである。 こうした急速に進む通貨切り上げ競争、利上げ競争は過去にあまり経験したことがなく、世界経済に大きな打撃を与えるのではないかと思われる。
世界経済の悪化で物価の安定を取り戻す流れに
足元では、原油価格に下落傾向が見られており、物価高騰も最悪期を越えつつあるとの見方が広がり始めている。他方で、世界の利上げを主導するFRBは、景気を犠牲にしてでも高い物価上昇が定着することを避ける覚悟である。そうした姿勢の下では、FRB及び他国での金融政策の転換は遅れやすい。 さらにそうしたもとでは、景気に影響する実質短期金利(名目短期金利ー期待インフレ率)は高止まりないしは上昇し、追加で景気抑制効果を発揮することになってしまう。過去には、景気減速や金融市場の混乱を受けて、FRBは急速な金融緩和に転じ、それが事態の改善に大きく貢献してきた。近年では、リーマンショックやコロナショック後の対応がそうである。しかし歴史的な物価高を受けてFRBのインフレ警戒が非常に強い中、今回はそのような対応にはならないだろう。 FRBは今まで歴史的なペースで利上げを進めてきたが、金融引き締めによる経済への影響が大きく出てくるのは、むしろこれからである。FRB金融引き締めが米国および世界経済を悪化させてしまうオーバーキルのリスクは相応に高い。ただし、経済の悪化によって、世界は何とか物価の安定を取り戻す流れとなるだろう。