ネクストテスラになれる?
前編ではEVトラック市場についてご説明しました。
(前回のメルマガはこちらからご覧いただけます)
今回は後編として、とある企業にフォーカスして見ていきます。
簡単におさらいですが、EVトラック市場はこんな市場でしたね。
- 市場規模は2030年に440億ドル(6兆円超)まで拡大すると予測されている成長市場
- バッテリー式電気自動車(BEV)だけでなく、水素を活用した燃料電池自動車(FCEV)にも注目が集まる
- ダイムラートラック、ボルボトラック、テスラといった大企業が参入するも、圧倒的なメインプレイヤーはまだ不在
そして、この市場に果敢に挑む創業間もない企業がいる、というところまで前回お伝えしました。
さっそくその企業について見ていきましょう。
その企業とは...ニコラ (Nasdaq: NKLA) です。
創業6年目でナスダックに上場
ニコラは2014年にユタ州ソルトレイクシティで設立され、2020年6月に特別買収目的会社(SPAC)との合併によりナスダックに上場しました。
同社はクラス8と呼ばれる大型トラックの開発に加え、水素燃料ステーションも手掛けています。
大型トラックはバッテリー式電気自動車(BEV)と燃料電池自動車(FCEV)のどちらも開発を進め、世界最大の自動車部品メーカーであるボッシュとヨーロッパの商用車メーカーのIVECOから資金・技術支援を受け、テスラのトラック引き渡しより1年も早い、2021年12月に当社初のBEVトラックを2台納入。今年は300台〜500台を納入する見通しを発表しています。
一方、FCEVは2023年第1四半期に生産を開始し、2023年末までには量産化を軌道に乗せる予定としています。
こちらがニコラのBEVトラック。スタイリッシュな見た目です。
荒波に揉まれた船出
創業6年での上場と聞くとすごく順風満帆なように聞こえますが、ニコラは上場後まもなくして会社の今後をも左右する事態に見舞われます。
創業者でトレバー・ミルトン前会長が投資家への詐欺行為で連邦検察に起訴されたのです。(裁判は現在進行中)
最も悪質だと言われているのは、2018年に公開されたセミトラック「ニコラ・ワン」の映像。
開発途上のトラックを傾斜が緩やかな丘の上に牽引し重量で坂を下らせ、あたかもニコラ・ワンが実際に走行可能であるかのように見せたのです。
その影響で株価は急落。
GMとの提携も破談になりました。
上場後すぐにどん底を経験した同社ですが、そのような状況からの再起をかけ、現在、同社は着実な歩みを進めています。
選択と集中
問題が起きる前のニコラは、大型トラック以外にもサイドプロジェクトでピックアップトラックや、水上バイク、軍用車両の開発も計画していましたが、ミルトン氏の退任後、マーク・ラッセル最高経営責任者(CEO)の下、大型トラックの製造と水素燃料ステーションの構築のみに注力するようになりました。
そして、2021年に入ると他社とのパートナーシップを次々と契約し、巻き返しを図り始めます。
同社は現在、BEVトラックの試験走行をウォルマート、イケアなどといった複数の企業と開始しています。
水素ステーションにおいても、トラックストップ運営大手の「トラベルセンターズ・オブ・アメリカ(TA)」との水素ステーションネットワークの共同開発や、IVECOおよび天然ガス供給会社のOGEとの欧州における水素パイプラインの構築など、複数の取り組みが同時進行中です。
直近の四半期決算で見えてきた課題は、リチウムイオンバッテリーの不足とコスト管理。
同社はバッテリーパックをロメオ・パワーから調達しているのですが、バッテリーパックの製造の遅れによりニコラの組み立てラインが2週間ストップするという事態が発生。
さらに、その遅れを航空輸送でカバーしたため、利益率の悪化につながってしまいました。
こうした課題に対し、同社はロメオ・パワーの買収と輸送方法の見直しで対応しています。
ニコラはロメオ・パワーの買収によって製造管理が可能になることに加えて、バッテリーパックの大幅なコスト削減が可能になると予想しています。
長期的にはプラス材料です。
ただし、短期的には買収費用が利益を圧迫する要因になります。
さらに足元のインフレによりバッテリーセルのコストも上昇しているため、同社の利益がプラスに転じるのは、インフレが落ち着き、バッテリーパックの安定供給が実現される、少し先の話になりそうです。
もちろん、利益が出ていないので資金は外部からの借入や株式発行による調達で賄っている状態。
EVトラック市場は、脱炭素の流れやインフレ抑制法の成立による補助金支給もあり、今後拡大が期待される非常に魅力的な市場です。
しかし、そんな魅力的な市場を放っておくわけもなく、多くの企業が参入し、メインプレイヤーになるべくしのぎを削っています。
そのような中、ニコラは高い開発力を武器に、いち早く市場に製品を投入。
さまざまな課題はありますが、大手との提携や買収によって着実に前に進んでいます。
一方、投資家への詐欺行為が行われるなどマネジメント能力には懸念が残ります。
しかし、2022年8月、ドイツの自動車メーカーオペルを率いた経験を持ち、ベトナムのEV新興企業ヴィンファストのCEOも務めたマイケル・ローシェラー氏がCEOに就任すると発表。
この課題においても解決策を打ち出してきました。
足元の株価は投資家からの信頼が回復されたとは言い難い水準にあります。
しかし、現在の前向きな取り組みが魅力的な製品の発表や収益化といった形で見えてくれば信頼回復は難しくはないという見方も市場には存在しますし、今後が期待される企業の一つであることには違いないとみています。
今回、前編・後編に分けてEVトラック市場について見てきましたが、株式市場が不安定な現在、このように企業情報を踏まえた上で、投資するか否かを判断するのが賢明であると考えています。
このメルマガで扱う銘柄は、推奨ではなく、あくまで事例として取り上げていますが、このようなチャレンジングな企業に投資し、企業の将来をワクワクして見守る。そのような要素が株式投資に少しあると、資産を増やす以外の違った楽しみができると思っています。
株価をみて一喜一憂するのではなく、企業の動きを見てその将来にワクワクする。
(駆け出しのアイドルを応援する気持ちと似ているかもしれません(^^) )
私たちは株式投資にワクワクを与えてくれる、おすすめ銘柄のご紹介も行っています。
ぜひ、楽しみながら株式投資を行ってみてくださいね。