パウエルFRB議長が40年前の話を今わざわざ持ち出して強調した事情
アメリカ西部ワイオミング州の景勝地ジャクソンホールに中央銀行幹部や経済学者らが毎年夏に集まって、世界経済や金融政策を議論する「ジャクソンホール会議」。 【グラフ】1970年代は猛烈なインフレが長期化した 8月下旬に開催された今年の会議でアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長がかなりタカ派的(金融引き締めに積極的)な演説を行い、その後の世界的株安につながったのは周知のとおりだ。 今年の議長演説で印象的だったのは、1970年代から80年代初頭にかけての「グレート・インフレーション(大いなるインフレ)」の時代を引き合いに出して熱心に語ったことだ。約10分の演説のうち、実に半分強がその関連の話で占められた。もちろん、インフレファイターとして名高いポール・ボルカー元FRB議長も話題に登場した。
なぜパウエル議長はもう40年以上前の話をそこまで強調して語ったのか。次の金融政策決定会合である9月20~21日のFOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)を控えた今、演説内容を振り返りながらその意味合いを考えてみる。 ■物価安定実現への固い決意 パウエル氏は1970年代以降のインフレのダイナミクス(変動力学)から3つの重要な「教訓」が引き出せると語った。 第1の教訓は、「中央銀行は低く安定したインフレを実現する責務を果たすことができるし、そうすべきである」ということだ。
1970年代のグレート・インフレーション期にはそのことが疑問視されていたが、今日では当然のことであるとし、「物価安定を実現するわれわれの責務は絶対的(unconditional)なものだ」と述べた。どんな条件下にあっても物価安定に全力を注ぐというFRBの使命と、FRB議長としての固い決意を明確に示したのである。 現在の高インフレはグローバルな現象であり、アメリカと同等以上のインフレ率を記録する国も多い(アメリカの消費者物価上昇率は7月が前年同月比8.5%)。