マネーの歴史から見る、かつての経済大国ニッポンがここまで没落した本当の理由
今なお世界をリードするアメリカ経済、リーマンショック、中国経済の大躍進、そして長期の日本経済低迷......それらはなぜ起こったのか。お金を切り口に世界史上の大きな出来事を整理すると、世界史が少し違って見えてくる。元国税庁の職員で、お金をめぐる諸問題に詳しい大村大次郎さんに、世界史や世界のニュースをお金で読み解いてもらった。 ■経済大国アメリカは未曽有の借金大国 お金の流れに注目すると、世界のニュースはまったく違った面を見せることがあります。アメリカ、中国、日本、今後の世界の経済動向について、マネーを切り口に近現代史を振り返ってみましょう。 長い間アメリカは世界経済の中心であり続け、今なお世界一の経済大国です。しかし、その実態は恒常的な財政赤字と貿易赤字を抱えた未曽有の借金国なのです。アメリカの債務残高は現在約30兆ドル。1ドル=130円とすると、日本円で約3705兆円にのぼります。 ちなみに日本国債はほぼ国内で消化されているのに対して、アメリカの国債は世界中で買われています。世界中の国から借金をして、自国の財政をまわしているのです。対外債権から対外債務を差し引いた対外純資産も約14兆ドルの赤字で世界最大です。これらが財政面の話です。 貿易面で国際収支を見ても、アメリカは多額の貿易赤字を記録しています。2019年は輸出が約1兆6000億ドル、輸入が約2兆5000億ドル以上で、輸出額の1.5倍の輸入をしています。アメリカは経済状態が世界最悪国なのです。
ではなぜアメリカが経済大国であり続けているのか。理由は2つです。 まず、ドルが世界中の経済を動かす基準の単位、基軸通貨であること。もうひとつは、第2次世界大戦後、ヨーロッパの復興を支援するため、1948年の「マーシャル・プラン」で多額の融資や贈与を行ったことです。西側諸国が復興しなければアメリカの輸出品を買ってもらえないという動機から、ドルは世界中にばらまかれることになりました。 こうして借金大国であっても、世界中でドルが使われ、世界の金融システムがアメリカを中心にまわっていることで、アメリカは経済大国のままでいられるのです。ちなみにドル以前はイギリスのポンドが基軸通貨でしたが、イギリスは第1次世界大戦で打撃を受け、基軸通貨として持ちこたえられなくなりました。 71年のニクソン・ショックも大きな出来事でした。それまで基軸通貨は1ドルなら1ドル分の金と交換できました。これを兌換(だかん)と言いますが、アメリカはドルと金の兌換を停止しました。しかし、すでにドルが世界中で流通していたので、世界の人々は金の裏付けなしにドルの価値を信じてドルを使い続けたのです。 これでアメリカは、金の準備が不要になり、同じ頃提唱された、マネタリズムという思想も後押しし、レーガン大統領の政策「レーガノミクス」でどんどんお金を刷って、海外のものを買い、借金を重ねます。世界中の国がアメリカ国債を買い、世界はよりドル依存を深めました。こうして現在のアメリカ=ドルの覇権が確立されたのです。このことでアメリカはマネーゲームに走り、結局リーマンショックのような金融危機を招くことにもなりました。 ■軍事力の裏付けも基軸通貨のドルを支える ドルの強さには軍事力という背景もあります。強い国の通貨は信用されます。アメリカはソ連崩壊の後、世界最大の軍事大国となり、他国はその軍事力に対して怯えや遠慮を抱いてもいます。ドルの信頼を高めるためアメリカは何かにつけて他国に軍事介入してきました。イラク侵攻も大量破壊兵器は口実で、イラクが石油の取引をドルからユーロに変えようとしたためという面があります。 次に中国の驚異的成長はなぜ可能になったのかを見てみましょう。 中国は96年に世界第2位の外貨準備保有国になりました(1位は日本)。2004年には世界第3位の貿易大国となり、現在は1位。GDPは世界第2位です。 中国の強さの要因のひとつはアヘン戦争までさかのぼります。18世紀半ば以降、イギリスで紅茶の消費が劇的に伸び、中国(清)からの茶の輸入が増加したことで、イギリスの銀が大量に流出しました。そこでイギリスは清にアヘンを流し、清ではアヘンがまん延、茶だけではアヘン代を払えず、差額をイギリスに銀で払い続けたので財政難となりました。清はアヘンを禁輸し、イギリスは清に侵攻。アヘン戦争が勃発し、敗北した清は、香港などをイギリスに割譲。日清戦争にも敗北し、以後100年の忍従を強いられました。この屈辱が以後の中国の強靭(きょうじん)さ、かたくなさ、容赦のなさの源となっています。