世界中がインフレでも、日本だけ「ずっと慢性デフレ」という残念な現実
世界的にインフレが生じ、日本でも物価高が家計を直撃している現在。しかしマクロな視点で見てみると、1995年ごろから日本では「賃金も物価もほぼ横ばい」であり、現状からは想像しにくい「慢性デフレ」状態だ。 【漫画】グーグルが上場したときに株を「100万円」買っていたら、今いくら? それ以前は右肩上がりだった日本の物価と賃金は、なぜここ30年ほど凍結されたように動かなくなってしまったのか? 新刊『世界インフレの謎』より、その背景を解き明かしてみたい。 ----------
いつもの店で値段が上がったら
では、価格と賃金の凍結は、どのような仕組みで起きているのでしょうか。そして、「急性インフレ」という新たな事態の下で、凍結に何らかの変化は見られるのでしょうか。このことについて、アンケート調査などで得られたデータをもとに、見ていくことにしましょう。 価格の凍結の根本的な原因は、消費者の「インフレ予想が低すぎる」ことにあります。人々が物価はあまり上がらないと考えていることが、デフレを慢性化させたということです。どういうことか、ふだん利用しているお店が値上げをしたとき、人々がどう反応するかという例で説明しましょう。 まず、米国のように年2~3%程度のインフレが生じている状況を考えます。この場合、お店が2%の値上げをしたのを見たお客さんはどう反応するでしょうか。 そのお客さんは、もともと年2~3%のインフレは起こるものと想定しています。ですから、そのお店以外の店でも、同じぐらい値上げされているか、あるいはもっと価格が上がっている可能性すらあると考えます。そうであるならば、わざわざ別のお店に行くようなことはせず、ふだん利用しているお店で、2%高くなった値段を受け入れて買い物することを選ぶでしょう。 これに対して、物価が長く変わっていない環境──日本のような──にいる消費者はどうでしょうか。いつもの店に行くと売り物の値段が2%値上げされていたら、どう反応するかを考えます。その人にとっては、商品の値段が上がらないことが当たり前、常識になっています。その常識に照らして、このお店で値段が上がっているのは何か特殊な事情があるのだろうと考えるに違いありません。 そして、そういう特殊事情のない他の店では値上げをしていないだろうと予想するでしょう。他店は安いはずと予想しているのですから、2%高い値段で買い物をするはずがありません。踵を返して他店に向かうことでしょう。