世界的なインフレが長期トレンドだとしたら日本は何をすべきか【江上剛コラム】
◆作家・江上 剛◆
エネルギー価格高騰や記録的な物価高に見舞われて広がる英国の「ストの波」。写真は集結した郵便局の職員ら=2022年12月9日、ロンドン【AFP時事】
今、私たちはインフレにおびえている。特に日本は、給料が増えないから、他国より深刻かもしれない。 給料を増やせと政府は、大きな声で経済界に叫んでいるが、給料が上がるということは人件費、コストが上がるということだから、もっとインフレになるに違いない。物価の上昇率よりも給料の上昇率が高ければ、問題は少ないが、逆になれば、悲惨度は増すに違いない。 人々の不満はどこに行くのだろうか。英国ではインフレが原因で、あっという間に首相が辞任に追い込まれた。米国のバイデン大統領も足元がふらついている。 韓国だってそうだ。尹政権も梨泰院で多くの人が亡くなったという悲劇的な事故に加えて、インフレで政権が揺らいでいる。 日本の岸田文雄首相も閣僚の失言や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題で足元がぐらぐらしているが、根本的にはインフレと実質賃金の低下が政権不安定の原因だ。
◆「少子高齢化がインフレ要因」
このインフレ傾向は、ロシアによるウクライナ侵攻やコロナ禍などによる一時的なものかと考えていたが、「人口大逆転ー高齢化、インフレの再来、不平等の縮小」(チャールズ・グッドハート&マノジ・プラダン著、澁谷浩訳、日本経済新聞出版刊)を読んで、「長期的なトレンドなのだ」と思った。 本書は、人口大逆転(少子高齢化)がインフレ抑制をインフレ圧力に変えると言う。今日まで世界には台頭する中国と、ベルリンの壁が崩壊した東欧諸国から大量の労働力が提供された。 また先進国においても、女性の社会進出などによって「歴史上かつて見たことのない巨大な労働供給ショック」によって、世界経済は理想的な人口構成になり、飛躍的に発展した。しかし、このような幸運な時代は終わり、少子高齢化によって厳しい時代に突入すると説明する。 では、なぜ少子高齢化がインフレ要因なのか。本書は次のような理由を挙げる。 少子化は労働力の不足をもたらし、経済成長を鈍化させる。 高齢者介護は経済コストを増大させる。 高齢化は人口移動を低下させ、また介護は国内労働力に頼らざるを得なくなり、今までのようなグローバル化の進展は期待できない。 少子高齢化は依存人口(0歳から14歳、65歳以上)が労働人口(15歳から64歳)を上回ることで必然的にインフレを引き起こす。何も生産せず消費するだけの人が増える。 労働人口の減少は、労働者の交渉力を強めることとなり、労働コストを引き上げる。 高齢化による社会保障費が増大し、労働者は実質賃金の向上を要求するため、さらに労働コストが上がる。 高齢化により高齢者は既存住宅に住み続け、若い世帯は新しい住宅を購入するため住宅需要は安定的に推移する。また企業は労働力不足を補う投資を活発化させることなどから貯蓄以上に投資が増大し、実質金利が上昇する。