中国経済〝沈没〟習氏3選決定で人民元も香港株も暴落 新指導部に「ブレーキ役」不在で企業統制強化か 選択迫られる日本企業
中国共産党の習近平総書記(国家主席)の3選が決まったことで、経済減速への懸念は一段と強まっている。新指導部では李克強首相ら「ブレーキ役」が不在となり、企業への統制はますます厳しくなりそうだ。台湾有事も現実味を増したことで投資家は「習リスク」を意識し始め、人民元や香港株が急落する場面もあった。中国に進出する日本企業もいよいよ選択を迫られる。
当初は共産党大会中の18日に予定されていた7~9月期の国内総生産(GDP)の発表は24日となり、前年同期比3・9%増だった、政府が通年目標とする「5・5%前後」の達成は極めて厳しくなった。
中国税関総署が発表した9月の貿易統計も輸出が前年同月比5・7%増で前月の7・1%増から鈍化した。
格差是正策とする「共同富裕」やIT・不動産企業への締め付け、ゼロコロナ政策など、習氏の看板政策がことごとく裏目に出た形だ。
第一生命経済研究所の西濱徹主席エコノミストは「家計消費や不動産、民間部門の弱さが確認され、インフラなど公共投資頼みが鮮明になった。外需の回復も期待しにくく、ゼロコロナ政策の貫徹も明言していることで先行きも懸念される。統計公表の延期も市場に悪い印象を与えた」と分析する。
新指導部人事も今後の経済運営に影を落とす。習氏とライバル関係にある共産主義青年団(共青団)系の李克強首相が最高指導部から退任が決まった。コロナ対策や貿易、海外投資などで手腕を発揮し、「存在感を増している」との見方もあったが、完全引退を余儀なくされた。
米国留学経験のある国際派で知られ、「経済ブレーン」を務めた劉鶴副首相も党政治局員から外れた。そして新政治局員に昇任し、経済を託される可能性もあるとされる国家発展改革委員会の何立峰主任は地方勤務の経験しかないとされる。
前出の西濱氏は「これまで習氏の力が強いにせよ、バランサーがおり、政策運営の微調整ができていた。イエスマンばかりの新指導部ではその余地も失われる可能性がある。改革開放など経済に真剣に取り組む印象はなく、管理・統制強化は進むとみられる。外資誘致と共同富裕などの政策は『中国の発展に資する企業だけ歓迎する』という意味に等しい」と指摘した。
マクロ経済政策を担う国家発展改革委員会の趙辰昕副主任は17日、製造業を中心に外資誘致につながる政策強化を表明した。市場原理を認めつつ、党・政府が経済活動に積極関与する統制色の強い発展方式「中国式現代化」推進も打ち出す。
中国政府による企業統制は強化されている。中国人に諜報活動への協力を義務付けた「国家情報法」や、中国人労働者の徴用、外資系企業や外国人個人も含む銀行口座や金融資産の凍結などの懸念がある「国防動員法」のほか、国家安全の観点からデータの取得や保存を制限する「データセキュリティー法(データ安全法)」も施行。海外企業も例外ではない。
25日には人民元が対ドルで2008年以来の安値水準に設定された。24日には香港株式市場で主要指数が6%を超す急落を記録、中国本土の銘柄で構成する指数は7%超の下落となった。
その後は買い戻される場面もあったが、市場の警戒感は強い。ブルームバーグは「習氏が投資リスクに」とする記事で、「中国資産に不安を感じている資産運用会社をさらに遠ざける危険性が生じている」と伝えた。
日本では円安の流れもあいまって、サプライチェーン(供給網)の「国内回帰」の動きも加速。自動車から電子機器、服飾、生活用品まで幅広い分野に及んでいる。
日本企業は今回の党大会を意識した「脱中国」も本格的に視野に入れるべきだと警鐘を鳴らすのは評論家の石平氏だ。
「新指導部は李強新首相ら経済の門外漢ばかりで、習氏の経済への関心のなさもうかがえる。李克強氏の退任は来年3月だが、すでに指導力はなく、経済の立て直しは難しい空白期間に入る。『民間企業いじめ』とされる共同富裕に抵抗する人もいなくなり、ゼロコロナ政策も続くとみられる。今後も中国ビジネスを続ける企業は自らの首をしめかねない」