主要国で唯一「経済成長していない」日本が、バブルで急速に失速した「意外な理由」【脳科学者・茂木健一郎が解説】
「アニマルスピリッツ」とは、「血気」「野心的意欲」「動物的な衝動」などと訳され、合理的には説明しがたい不確定な心理のことを指します(英経済学者ケインズが使用)。日本のバブル以降の低迷要因は、このアニマルスピリッツが関係していると、脳科学者・茂木健一郎氏はいいます。どのようなことなのでしょうか? みていきます。※本連載は、茂木健一郎氏の著書『「本当の頭のよさ」を磨く脳の使い方 いま必要な、4つの力を手に入れる思考実験「モギシケン」』(日本実業出版)から一部を抜粋し、幻冬舎ゴールドオンライン編集部が本文を一部改変しております。
強すぎる野心は自爆のタネ
俺はアニマルスピリッツがあるのにうまくいかない。そう思っている人もいるかもしれませんね※。これは単純な話で、アニマルスピリッツは「強ければ強いほどいい」わけではないのです。 ※ 参照: 第5回『イーロン・マスク、スティーブ・ジョブズ...時代を切り拓く成功者たちが持つ「野心」とは』 たとえば田中角栄(1918~1993)という政治家がいました。裸一貫から政界のトップにまでのし上がり、東京から地盤のある新潟まで道路を貫通させ、日本改造計画をぶち上げました。一時は権力と栄誉、富のすべてを手中におさめ、内閣総理大臣を退任後もキングメーカーとして政治をコントロールしました。その影響力はかなりのもので、住まいがある場所から「目白の闇将軍」と呼ばれていたほどです。 しかし、田中角栄の最期は華々しいとは言えませんでした。ロッキード事件に連座し逮捕、収監。有罪判決を受けた刑事被告人のまま亡くなりました。 歴史を振り返れば、こういった栄枯盛衰譚は枚挙にいとまがありません。古くは平家物語などに描かれる平家一門でしょう。「驕る平家は久しからず」ですね。石田三成の三日天下などもその類かもしれません。 誰もが驚くようなことをやってのけるひとかどの人物は、同時に有り余る力をコントロールできなければ自爆するのです。 田中角栄などはいいほうです。一度は権力の頂点に登り詰めたのですから。功名心、野心が強すぎて周りの人と余計な軋轢(あつれき)を生んで孤立してしまったり、という人も多いかもしれませんね。それが「アニマルスピリッツが強いのにうまくいかない」状態です。 「アニマルスピリッツ」はコントロールできてこそ知性 まだまだ記憶に新しい福島の原発事故から10余年が経ちました。いまも復興作業は続いており、住民が帰還できていない地域もあります。水素爆発が起こった福島第一原発の廃炉へ向けた作業は着々と進んでいるものの、完全に処理が完了するまでには最大40年かかるとも予測されています。 原発は、あなたの中に眠るアニマルスピリッツと似た存在だと言えるかもしれません。つまり、ものすごいパワーを持っているけれど、そのパワーを正しく使いこなすには高度なコントロール力が必要ということ。それができてはじめて、エネルギーとして利用できるわけです。 野心や野望、あるいは衝動もそうですが、そのエネルギーが強ければ強いほど、それをうまくコントロールしなければ、とんでもないハプニングや不祥事を引き起こしてしまうのです。