全米が注目する…「アメリカ野球殿堂」でイチローが「桁違いの評価」を受ける、その意外なワケ
小さな町のビックなセレモニー
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私が取材マイクを突き出して「今のご気分は?」と問いかけると、彼は一言「最高だよ」と答えてくれた--。その人の名はノーラン・ライアン。通算奪三振5714はメジャーリーグ最多記録。ノーヒット・ノーランも史上最多の7回達成した伝説の選手だ。 【写真】レジェンドたちも熱狂「アメリカ野球殿堂」セレモニーの秘蔵写真はこちら "ライアン・エキスプレス"と呼ばれたノーラン・ライアンは、私がメジャーリーグを知るようになった頃からずっと大好きな選手だ。 そのライアンが殿堂入りしたのは、1999年7月25日。私がちょうどロサンゼルスに特派員として赴任していた時だった。これは運命だと自分に言い聞かせた私は、殿堂入り記念式典を取材するためクーパーズタウンに向かったのだ。 博物館の横の芝生の上でセレモニーが行われ、会場のみならずクーパーズタウンの街全体がお祝いムードに包まれた。野球殿堂の中でニュース用にリポートも撮影した。アメリカ野球の神髄に触れることが出来たと感じた貴重な経験だった。 先月24日(日本時間7月25日)、アメリカ・ニューヨーク州のクーパーズタウンにある「アメリカ野球殿堂博物館」で、今年の殿堂入りセレモニーが行われた。 今年殿堂入りしたのは、ボストン・レッドソックスで上原浩治のチームメイトだった通算本塁打541本のデビッド・オルティーズや、私もかつて取材で一緒に野球をやったことがあるトニー・オリーバら7人だ。 記念式典は多くの関係者やファンが集まり盛大に催され、殿堂入りした本人や、未亡人、娘たちが記念スピーチを行った。 じつはこの米野球殿堂に入った日本人選手はいまだかつて1人もいない。その重い重い扉を開けようとしているのがイチローだ。果たして、イチローは米野球殿堂に入ることが出来るのか。野茂は? 大谷は?
アメリカ野球ファン「最大の聖地」
アメリカ野球殿堂博物館の館内では、殿堂入りした選手のプレートが設置されている(Photo by gettyimages)
クーパーズタウン。この土地の名前を聞くだけで胸がキュンとなる。メジャーリーグ・ファン、いや世界中の野球ファンにとって、誰もが一度は訪れてみたい憧れの場所。そこにはアメリカ野球殿堂があるのだ。 日本のファンにとっては、甲子園球場が近いイメージかも知れない。どちらも"野球の聖地"と呼ばれている。私は取材も含めてこれまで3度、クーパーズタウンを訪れている。 クーパーズタウンはニューヨークのマンハッタンから車で約5時間。湖に面した人口1700人あまりの小さな街だ。この地に3階建てレンガ造りのアメリカ野球殿堂博物館(National Baseball Hall of Fame and Museum 、略称HOF)があり、その博物館の中に野球殿堂がある。 野球殿堂には、これまで殿堂入りした選手や監督、球団オーナー、審判、球団専属アナウンサーなどの記念レリーフが飾られている。1936年に選ばれた第一回のベーブ・ルースやタイ・カッブなど5人から始まり、これまで300人以上が殿堂入りしている。 殿堂入りは、全米野球記者協会に10年以上在籍するベテラン記者の投票によって選ばれる。メジャーリーグで10年以上プレーした選手が引退後5年経てば候補者となり、75%以上の得票率で晴れて殿堂入りとなるのだ。 投手では300勝、打者では3000本安打か500本塁打を達成すれば殿堂入りは間違いないと言われているが、例外もある。成績さえ残せば殿堂入りできる、とはならないのだ。 例えば、762本の通算本塁打記録を持ちMVP7回のバリー・ボンズも、通算354勝でサイ・ヤング賞7回受賞のロジャー・クレメンスも、通算本塁打609本のサミー・ソーサも、今年が記者投票による選考が最終年となる10年目だったが、いずれも記者投票での殿堂入りは果たせなかった(将来、ベテランズ委員会によって殿堂入りする可能性はある)。彼らに共通するのは、筋肉増強剤など禁止薬物使用疑惑を指摘されたことだ。 野球殿堂博物館の中では野球殿堂が有名だが、殿堂以外の展示物も野球ファンにとっては涙ものだ。ベーブ・ルースが実際に使用したユニフォームやバットをはじめ、歴代の人気有名選手が使用したユニフォーム、バット、グローブ、記念ボールなどが所狭しと並んでいる。 野茂英雄の帽子とノーヒット・ノーランを達成した試合のボールや、イチローのバットなども展示された。 メジャーの歴史的な瞬間を飾った野球用具などは、選手からの寄贈を受けて博物館に飾られることになっている。昨年、史上初めて二刀流でオールスター・ゲームに出場した時に使用した大谷翔平のスパイクなども試合後、野球殿堂博物館に贈られた。 クーパーズタウンの楽しみは野球殿堂だけでは終わらない。殿堂のすぐ近くには、ダブルデイ・フィールドという昔ながらのこじんまりとした球場がある。 この地も、アメリカ野球の"聖地"である。かつては、ここクーパーズタウンでダブルデイ将軍が野球を考案したとされていたが、その後の研究で間違いだったことが分かった。 それでもこのダブルデイ・フィールドは、今でも野球を愛する者の"心の故郷"なのだ。MLB(メジャーリーグ機構)はこの地に敬意を表して、この小さな観客席しかないダブルデイ・フィールドで、かつては毎年メジャー球団による奉納試合を行っていたのだ。 "野球の聖地"での試合開催と言えば、昨年夏には野球ファン必見の映画「フィールド・オブ・ドリームス」の舞台となったアイオワ州のとうもろこし畑の中の球場で、ニューヨーク・ヤンキース対シカゴ・ホワイトソックスの公式戦が行われた。 映画の有名なシーンを再現して、復刻ユニフォームを着た選手たちがとうもろこし畑から出て来たシーンを覚えている野球ファンも多いだろう。 こういう演出が、アメリカ野球の良いところなのだ。アメリカ人がいかに野球を愛しているか、いかに野球をリスペクト(敬意を表する)しているかを感じずにはいられない。ちなみに今年も8月11日にカブス対レッズで「フィールド・オブ・ドリームス」ゲームが開催される。今シーズンからカブスに加入した鈴木誠也も出場する予定なので、日本のファンにとっても必見の試合になる。