円安は構造的な問題、人口動態の隘路が「円」の評価を下げている
21世紀に入って民間の金保有が減少 世界的なインフレが話題になり、注目されている資産があります。金です。世界の中央銀行や公的機関は、外貨準備資産として金の保有量を積み増してきました。背景には、大規模な金融緩和で基軸通貨である米ドルの供給量が膨らみ続けたことも大きな要因として挙げられるでしょう。 【グラフ】実質実効為替レートは人口動態と相関か では日本の金の保有動向はどうなっているのでしょうか。 20世紀以降の統計を振り返ると、日本の公的金準備量は第一次大戦を挟んで急増し、1925年には866トンに拡大しました(図1)。ところが、その後の世界恐慌の影響と、戦争、そして敗戦で全てを失います。1950年にはわずか6トンにまで減少しました。 拡大画像表示 *本記事には4つの図表が含まれています。配信先のサイトで表示されない場合は、こちらでご覧ください。https://jbpress.ismedia.jp/articles/gallery/71199 戦後、経済復興が始まると再び盛り返します。1978年は746トンと、戦前のピークまであと一歩まで回復しました。だが、その後は他の先進国と同様、金準備量はほとんど増加していません。2021年は846トンです。 代わりに増えたのは民間の金保有です。きっかけは1986年の天皇御在位60年記念金貨の発行でした。この年、政府は600トンの金を輸入しました。その後も輸入超過の状況が続き、1978年からの22年間で約3800トンの金が日本に流入しました。 それが21世紀に入って状況が一変します。2021年末までの20年間でその4分の3相当量を失っているのです。
■ 25~64歳人口は2004年をピークに減少 拡大画像表示 主因は購買力のある勤労者世代の人口減です。図2を見てください。25~64歳人口と金の累積輸入量の推移を示しています。グラフからは両者が相関していることが分かります。20世紀の終わり頃までは、ネットで見た金の累積輸入量は増加してきました。 ところがその後、反転します。25~64歳人口は2004年にピークをつけ、以降、2021年までに購買力がある年齢層が約806万人、1割強も減少しました。それによって、国内では買い手が不足し、金が海外に流出したのです。 このように働き盛り世代の人口減少は、日本経済をジワジワと衰弱させています。 具体的にみてみましょう。国家の若さを計るうえで、逆依存人口比率という尺度があります。これは、生産年齢人口(15~64歳)をそれ以外の人口(15歳未満+65歳以上)で割ったものです。1人の被扶養者が何人の働き手に支えられているかという指標になります。 この比率が高い(生産年齢人口の割合が多い)ほど社会全体の負担は軽く、経済は発展します。しかしいったんピークアウトした後は社会保障などに必要な債務が膨らみ、経済活動が鈍化する傾向にあります。 日本では1967年と1992年の2回にわたって逆依存人口比率がピークを迎えました(図3)。それらピークの近くで起きた証券不況(1965年)やバブル崩壊(1990年)は、市場が人口動態上の異変を察知した動きだったと言えるのではないでしょうか。