円買い介入と緩和維持の「矛盾」、円相場と日本経済の不安定性はむしろ強まる
2022年09月29日
- 政府、24年ぶり円買い介入 日銀は「緩和維持」で逆方向 円安が進む中で政府は9月22日の夕刻に、24年ぶりの円買い・ドル売りの為替介入に踏み切った。 鈴木俊一財務相は、円相場の「過度な変動」を抑えることを介入の狙いと語ったが、「変動が問題」という場合の「変動」とは、通常はトレンドの周りの変動を指す。 だが実際には、今年の3月以降明白な円安が続いており、そのトレンドからの変動はあまり大きくない。 介入の目的は変動の縮小化でなく為替レートの水準そのものだと考えざるをえない。 だがこれに先だってこの日、日本銀行が政策決定会合で決めた金融緩和の維持は円買い為替介入とは矛盾する政策だ。 アメリカなど主要国の中央銀行が利上げを続ける中で日銀が金利抑制を続けているから金利差が拡大し円安が進んでいるのだ。 政府と日銀が逆方向の政策を取ることになっており、市場参加者はどちらを信用してよいか分からなくなり、その結果、通常言われる意味での「変動」(=トレンドの周りの変動=ボラティリティ)が増し、円相場はむしろ不安定化する。
- 為替相場の不安定化で 日本経済のボラティリティも増す 円安加速の原因であるヘッジなしの「円売り、ドル買い」は本来、極めてリスクの高い取引だが、日銀が将来にわたる金利抑制を約束すればリスクが減る。 鈴木財務相は「投機による過度な変動は見過ごせない」としているが、投機をあおっているのは、日銀の金融政策だ。 政府が円買い・ドル売りの為替介入を行なえば、国内の短期金利は上昇する。この際に日銀が資金を供給すれば、短期金利上昇は食い止められるが、同時に介入の目的である円安阻止の効果は薄れる。 これを「不胎化政策」というのだが、黒田東彦総裁は、「緩和維持」を決めた政策決定会合後の記者会見で、「YCC(長短金利操作、イールドカーブ・コントロール)をしている以上、円資金の引き締まりは自動的に解消される」と明言している。 つまり現行の緩和維持の枠組みの下では自動的に不胎化になるというのだ。この点でも円買い介入のめざすものとは逆方向だ。 為替レートはさまざまな経済活動に影響する重要な変数なので、今後、為替市場にとどまらず日本経済全体のボラティリティも増すだろう。 ● 物価目標は達成されたのではないか 金融抑制続ける矛盾はほかにも 日銀が緩和維持(金利抑制)を続けることは、2%物価目標との関係でも問題がある。 直前に公表された8月の消費者物価(生鮮食品を除く総合)の対前年同月比は2.8%となった。 常識的に考えれば、物価目標は「2%より高くもしない」ということだろうから、今や金融引き締めに転じるべきだ。つまり政策金利を引き上げ、長期金利の上昇を認めるべきだ。 しかし22日の日銀決定会合で決まった「当面の金融政策運営について」では、こうした見方を否定し次のように書かれている。 2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する――。 ここでのキーワードは「安定的に持続」ということだ。 現在の状況に即して解釈すれば、「今の物価上昇は賃金上昇など経済活性化によって生じたデマンドプル型のものではなく、資源価格などの上昇による外生的なコストプッシュ・インフレだから、安定的ではない」ということだろう。 しかし、そうではあっても物価上昇が続いていることは事実だ。そして、日銀も物価上昇率が年内はさらに上昇するとしている。「それに対処しなくてよいのか?」という疑問が生じる。