北欧2国のNATO加盟で激変するパワーバランス:プーチンを脅かすフィンランドの軍事インフラ
能勢 伸之
北欧のスウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟手続きが着々と進んでいる。早ければ年内とうわさされる両国の正式加盟はNATOとロシアのパワーバランスに大きな影響を及ぼす可能性が高い。中でもロシアと国境を接するフィンランドには、ウラジーミル・プーチン露大統領が内心穏やかでいられなくなりかねない軍事インフラの影が差す。
2国のNATO接近に神経をとがらせたロシア
マドリードで覚書に署名後、写真撮影に臨むトルコのエルドアン大統領(左から4人目)、フィンランドのニーニスト大統領(同5人目)、スウェーデンのアンデション首相(同6人目)(トルコ大統領府提供)AFP=時事
NATOは2022年6月29日、スペインで開かれた加盟国の首脳会議で合意した文書「マドリード首脳会議宣言」を発表し、フィンランドとスウェーデンの加盟に向けた手続きを正式に始めることを明らかにした。両国の加盟にはNATO全加盟国の承認が必要だが、クルド問題等で難色を示していたトルコが6月28日までに支持に転じたことで、両国の加盟に向けた動きは大きく前進した。 各国の承認と批准を経て両国が正式加盟する時期は、早ければ年内との声もある。この2国の加盟が実現すれば、ロシアとNATOの軍事バランスが激変する可能性がある。 ウクライナで戦火が拡大していた22年3月4日、米国のジョー・バイデン大統領がロシアのウクライナ侵攻後、初めてホワイトハウスに招き、直接、面会した外国の首脳は第二次大戦後、東西のはざまで中立を保ち続けてきたフィンランドのサウリ・ニーニスト大統領だった。 米フィンランド首脳会談では、両国の安全保障関係を強化し、NATOの門戸開放政策の重要性で一致したという。会談後、バイデン大統領は「ニーニスト大統領と欧州の安全保障について話をした。会談の最中、我々はスウェーデンのマグダレナ・アンデション首相に電話を掛けた」ことを自身のSNS上で明らかにし、フィンランドとスウェーデンは「米国とNATOにとって重要な防衛上のパートナー」と呼んだ。 このようなフィンランド、スウェーデンの米国(NATO)との急接近を警戒したのだろうか、3月2日、ロシア空軍のSu-27戦闘機2機とSu-24攻撃機2機がスウェーデンの領空侵犯を行った。Su-24攻撃機はその時、戦術核模擬爆弾を搭載していたと3月末にスウェーデンのテレビ局が報じた。ロシアにとって全長1340キロメートルにわたって国境を接するフィンランドがNATO加盟国になることは、NATOとの巨大な境界線が出現することを意味するため、大きな脅威と受け取られても不思議ではない。