原発回帰へ首相一気 十分な議論、説明なく
岸田文雄首相が「原発回帰」の姿勢を鮮明にしている。東京電力福島第1原発事故後、歴代政権が慎重だった原発の新増設や建て替え(リプレース)を検討する考えを表明し、再稼働推進や運転年数の延長にも言及した。電力需給を安定させ、料金高騰への批判をかわす狙いがあるとみられる。ただ、十分な議論や説明がないまま原発政策の大転換に踏み切り、与党内からも疑問の声が上がっている。 <動画>奥尻ブルーの海 奥尻高でスキューバダイビング授業 「次世代革新炉の開発・建設を含め、あらゆる選択肢を排除することなく検討していく」。松野博一官房長官は25日の記者会見で、原発の新増設やリプレースを積極的に検討する姿勢を重ねて示した。 原発の新増設などについては、首相が24日に官邸で開いたGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で表明し、経済産業省を中心に年内に結論を出すように求めた。同会議は7月27日に続き今回が2回目で、いずれも非公開。国民の目が届かない中での短期間の論議で、原発依存度を低減するとしていた従来政策の根幹が大きく変更された。
背景にロ侵攻
背景にはロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー環境の変化がある。3月と6月に電力需給が逼迫(ひっぱく)し、自民党内で原発新増設や再稼働推進を求める声が強まった。各社の世論調査でも再稼働への賛成が多数を占めるケースが目立つ。電気代が高騰し、国民がエネルギー供給への不安を抱えている今なら、原発推進を打ち出しても理解を得られるとの読みがあるようだ。 福島第1原発事故以降、自民党政権は国民感情に配慮し、原発新増設を封印してきた。岸田政権発足直後の昨年10月に閣議決定した第6次エネルギー基本計画には「可能な限り原発依存度を低減する」と明記。首相も先の通常国会で「(新増設などは)現時点で想定していない」と明言していた。 周辺は「『現時点』でというのは、翌日には変わるかもしれないということだった」と話す。首相が布石を打っていた形跡もある。6月にまとめた経済財政運営の基本指針「骨太方針」は、前年の「可能な限り(原発の)依存度を低減」との表現を削り、「最大限活用」と踏み込んでいた。
福島の教訓は
ただ、7月の参院選の党公約では、原発の新増設などには触れず、再稼働を推進する姿勢にとどめていた。首相の第一声も福島市で上げ、「福島は自民党にとって特別な場所だ」と訴えた。党執行部内からも「本来は選挙の争点になってもおかしくないテーマだ。官邸はどうしたんだ」(中堅議員)と急な方針転換をいぶかる声が上がる。 共産党の志位和夫委員長は25日、ツイッターで「福島では多くの方々が故郷を追われ、苦しい避難生活を強いられている。福島の現実や教訓を忘れたのか」と批判した。