安倍路線継承」バロメーターに岸田内閣9月改造 菅前首相を「副総理」に起用か 岸信夫防衛相、高市政調会長の人事も注目
岸田文雄首相は9月上旬にも、内閣改造・自民党役員人事を行う。参院選で勝利を収めたが、応援演説中に安倍晋三元首相が銃撃されて死去する衝撃的な事件が起きた。岸田首相は、憲法改正や防衛力強化など保守派が推進する「安倍路線の継承」を明言した。安倍政権を官房長官として支えた菅義偉前首相を副総理に起用するとの観測もあり、人事は決意や方向性を図るバロメーターになりそうだ。
「安倍元総理が残したさまざまな功績の上に取り組みを進め、日本を次の世代に引き継いでいかなければならない。わが党は覚悟を新たに一致結束し、日本の繁栄と安心を確保していく使命に邁進(まいしん)する」
岸田首相は参院選の投開票から一夜明けた11日、党本部での記者会見でこう語った。安倍氏が熱心に取り組んだ拉致問題や憲法改正などの難題に自らも取り組むと強調し、「その先頭に立つ」と述べた。「戦後最大級の難局」との認識も示しており、挙党体制を念頭に人事を行うという。
菅氏の処遇は、最大の注目だ。新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか支持率低下を受けて首相を辞任したが、「ワクチン接種の加速」や「東京五輪・パラリンピックの開催」「携帯電話料金の値下げ」「デジタル庁創設」など、たった1年で数々の成果を挙げた。参院選の応援演説でも人気を集めた。
菅氏は「統率力」「調整力」にも定評がある。安倍政権では7年8カ月、官房長官を務め、「緻密で厳しい仕事ぶりで、霞が関官僚にもにらみを利かせた」(ベテラン議員)。
「佐渡島の金山」(新潟県佐渡市)の世界文化遺産登録に向け、国連教育科学文化機関(ユネスコ)に提出した推薦書の不備など、安倍、菅政権では考えられない〝醜態〟といえる。
副総理ポストについて、菅氏は周囲に「そんな打診はあり得ない」と語ったとされるが、最近の報道番組で、自身が推進した脱炭素やデジタル化を念頭に「総理として国民に約束したことを果たす」とも発言している。「非主流派」の実力者の取り込みを図りたい岸田首相の思惑と一致する可能性もある。
「安倍路線継承」の側面から注目すべき人事もある。岸信夫防衛相や、自民党の高市早苗政調会長だ。
安倍氏の実弟である岸氏は、欧米や台湾との関係が深く、事務方の信頼も厚い。ただ、今年6月には、防衛省事務次官の交代を強行した岸田首相ら官邸側と、安倍・岸両氏の対立が露呈した。
高市氏は安倍氏と政策が近く、昨年の総裁選では後押しを受けた。政調会長に就任したものの、憲法改正の考え方などの政策面で岸田首相との距離を指摘する声もある。
岩盤保守層を中心に、岸、高市両氏を「安倍路線の継承者」と見る向きもあり、岸田首相の判断が注目される。
【内閣改造、自民党人事の注目ポイント】
菅義偉前首相 調整・実務能力を期待し副総理での起用が浮上
閣僚
林芳正外相 中国との関係や対韓外交の姿勢に一部から懸念
萩生田光一経産相 安倍晋三元首相が次期党幹事長に推薦の意向
岸信夫防衛相 防衛次官人事で岸田文雄首相と対立も
松野博一官房長官 安倍派。調整役の評価高く早々に留任観測
党役員
茂木敏充幹事長 参院選などをめぐる調整不足で交代論も
高市早苗政調会長 憲法改正や国家観めぐり岸田首相と相違も