山上容疑者が安倍元首相を狙った「本当の意味」が、テロリズム分析から見えてきた
なぜ「安倍元首相」だったのか?
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安倍晋三元首相を暗殺した山上徹也容疑者の動機をきっかけにして、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)と自民党の癒着をめぐる報道が過熱しています。100人を超える国会議員が統一教会関連のイベントへの出席や祝電など、様々なレベルで関わっていたことが明らかになり、マスコミの報道量に応じて世間の風当たりも日に日に強まってきました。 【写真】安倍晋三が恐れ、小池百合子は泣きついた「永田町最後のフィクサー」 事件当初、思想的な背景がある「政治テロ」ではないかとの憶測が飛び交っていましたが、供述内容などから統一教会に母親が多額の献金を行ったことにより、家庭を破壊されてしまった男の復讐劇といったストーリーに回収されつつあります。 仮にそうだとしても、大きな疑問が残ります。 なぜ統一協会との癒着が指摘されている数ある国会議員の中でも、安倍元首相でなければならなかったのかということです。 山上容疑者は、去年安倍元首相が統一教会の関連団体に送ったビデオメッセージを見たことを動機に挙げています。そのビデオでは「(統一教会のトップである)韓鶴子総裁をはじめ皆様に敬意を表します」と明言していたからです。 しかし、被害を受けた側が加害した側に仕返しをするという復讐の図式で考えると、安倍氏は、その知名度ゆえに広告塔(というか内輪向けの権威付け)として教団に大いに利用された面はあるものの、山上容疑者の家庭を崩壊させた張本人ではありません。母親を巨額の献金へと直接導いたとされる教団の関係者に矛先が向くのが自然かと思えます。 けれども、そうではなかった点が非常に重要であり、だからこそ通常の犯罪とは異なる見方が必要なのです。
そもそも「テロリズム」とは
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私は拙著『テロリスト・ワールド』(現代書館)などで古今東西のテロリズムについて論述し、動機の社会的・心理的背景について探求してきましたが、山上容疑者の動機の解明には、今回の事件が法的・学術的にテロリズムに当てはまるかどうかよりも、テロリズムの手法や枠組みを分析の道具として用いることが有用だと考えています。 まず、テロリズムとは、定義上「政治的な立場や宗教的な信仰など、イデオロギーが対立する集団に恐怖を与えるために行使される暴力全般」を指します。そのため、メディアへの拡散やその余波をあらかじめ計算した上で、攻撃対象や使用武器の選定などを入念に計画し、犯罪行為を実行することが多いのが特徴です。なぜなら、犯罪行為がただの犯罪行為として処理されずに、センセーショナルな出来事として認知され、大々的に報道されなければ意味がないからです。 この視点を踏まえると、今回の事件は、語弊がある言い方にはなりますが、犯罪行為がもたらした効果から見て、想像以上に"成功"しています。なぜなら、事件以前はマスコミが熱心に報じなかった統一教会の霊感商法の被害や、自民党との癒着が始まった歴史的経緯、個別の政治家の関与についての詳細が次々と取り上げられるようになったからです。その火の手は、追及に及び腰なNHKの報道姿勢にまで及んでいます。これは安倍元首相が殺害されたインパクトに完全に比例しています。 ここで注目すべきは、山上容疑者がジャーナリストに送った手紙で「安倍は本来の敵ではない」「現実世界で最も影響力のある統一教会シンパの一人に過ぎません」と記し、供述でも「政治信条に対する恨みではない」などと話していることです。 これらの文書や発言から、殺害の対象をその個人の知名度、影響力によって決定したことがうかがえます。加えて、参議院選挙の応援演説というメディア関係者が集まる公衆の面前での犯行であることも見逃せません。