岸田首相、理想と現実の板挟み 核廃絶、広島サミットで真価 NPT演説
【ニューヨーク時事】1日(日本時間同日深夜)開幕した核拡散防止条約(NPT)再検討会議に異例の出席を果たした岸田文雄首相は演説で、理想と現実のギャップを埋めるのに腐心した。
【図解】内閣支持率の推移
核軍縮への機運を高め、来年広島で開催する先進7カ国首脳会議(G7サミット)につなげるのが狙いだ。ただ、核をめぐる国際情勢は厳しさを増しており、「核兵器のない世界」という理想の実現は見通せていない。
国連本部での演説冒頭、「私は強い危機感を持ってやってきた」と切り出した首相。ウクライナに侵攻したロシアが核による威嚇に踏み込んだことに「深刻な懸念」を表明した。
会議への出席は、被爆地広島出身の首相として、就任当初から「首脳が行くことに意味がある」と意欲を示していた。ただ、ウクライナ侵攻は想定外だった。首相周辺は「どの国も核軍縮という総論には賛成だが、ウクライナの状況を目の当たりにすると、核保有国も非核保有国も自国の安全保障を優先してしまう」と指摘する。
首相は演説で、核軍縮に関する米ロ、米中の対話を促した。核軍縮が思うように進まない現実に非核保有国の反発が強まる中、核保有国に軍縮努力を求めることで「橋渡し役」を担う決意を示した。
だが、その道筋には曖昧さもにじむ。演説で打ち出した核廃絶に向けたロードマップ(行程表)となる「ヒロシマ・アクション・プラン」は核兵器不使用の継続や核戦力の透明性向上など、「大きな方向性」(政府関係者)を示すにとどまる。
ロシアや中国、北朝鮮という核保有国に囲まれる日本は、米国の「核の傘」に依存せざるを得ない。演説では核兵器の保有や使用などを禁じた核兵器禁止条約に一言も触れておらず、「橋渡し役」として国際社会からの支持を得ることができるかは不透明だ。
首相は演説の締めくくりで、2歳で被爆し、10年後に白血病で亡くなった少女が病床で回復を願い鶴を折り続けたエピソードを披露。折り鶴を手に「志を同じくする世界中の皆さまと『核兵器のない世界』に向けて歩みを進めていく」と決意を示した。広島サミットへ向け、核廃絶をライフワークとする首相の真価が問われる。