岸田首相もやっと危機感…政府の「インフレへの鈍感さ」が、これから引き起こすこと
岸田文雄首相が、このところ進行しているインフレに対応するため、小麦の売り渡し価格を据え置くよう指示した。ようやく政府もインフレに対する危機感を募らせた形だが、日本社会は長くデフレが続いたせいもあり、インフレに対する認識が甘かった。インフレは後手に回ると国民生活に極めて重大な影響を及ぼす経済事象であり、過剰なくらいの対応が必要である。 【写真】125万人が忘れている「申請しないともらえない年金」をご存知ですか
日本は小麦の9割を輸入している
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日本は、国内で消費される小麦の約9割を外国から輸入しており、国内での生産は1割程度しかない。小麦の調達については、政府が一括して買い付け、民間事業者に売り渡す仕組みとなっている。 以前は年間を通じて同じ価格で販売されていたが、2007年以降は、市場価格を反映するようになった。具体的には年に2回、4月と10月に価格改定が行われており、過去半年の平均買付価格をもとに売り渡し価格が決定される。つまり、国内メーカーが仕入れる小麦の価格は、海外市場と比較して、約半年のタイムラグが存在することになる。 直近の小麦価格(トンあたり)は2022年4月に決定された7万2530円であり、半年前の2021年10月との比較では17.3%の値上がりとなっている。コロナ前と比較すると価格は1.5倍近くになったが、このまま規定通りに売り渡し価格を算定すると、さらに約2割程度、価格が上がる可能性があった。 日本は現在、年間3500億円ほど小麦を輸入しているので、仮に2割値段が上がると 約700億円のコスト増加となる。政府はこの分を公費で補填することで、最終製品の値上がりを抑制したい意向だ。国内では小麦価格の高騰を受けて、パンやパスタなどの価格が上がっており、商品の中には、すでに再値上げ、再々値上げされたものもある。 当初、政府・日銀はインフレのもたらす悪影響について甘く見ており、ガソリン価格の補填のみを実施してきた。当局がインフレについて軽く考えていたのは、日銀の黒田総裁の発言からも明らかである。 黒田氏は2022年6月、講演で「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」と発言し、国民から大きな批判を浴びた。発言の根拠となったのは、東京大学大学院渡辺努教授によるアンケート結果で、それによると、いつも行く店で購入する物の値段が10%上がった場合、「他の店に移らずその店で買い続ける」と回答した人が以前と比べて大幅に増加していた。