新総裁の下で日銀が最初に着手するのはYCC改革か
日本銀行にとって当面の最大の懸念は、イールドカーブ・コントロール(YCC)を維持するために、大量の国債買入れを強いられていることだ。それゆえ、4月に就任する新総裁のもとで最初に着手するのは、YCC改革ではないかと考えられる。 現在、10年の国債利回りは、YCCのもとで0%を目標値とする変動許容幅の上限である+0.5%に近い水準にある。利回りがこの上限の水準を超えないように、日本銀行は臨時オペや指値オペを通じて、国債の買入れを強いられている。国債買入れの拡大は、国債市場における日本銀行のプレゼンスを過剰に高めることで、市場を歪めてしまうおそれがある。また、日本銀行のバランスシートの肥大化を通じて日本銀行の将来の財務リスクを高め、さらに、財政ファイナンス観測を強めることで金融市場を潜在的に不安定にさせる。 日本銀行は昨年12月の金融政策決定会合で、変動幅を±0.25%から±0.5%へと引き上げた。その狙いの一つは、10年の国債利回りと変動幅の上限との差を拡大させ、国債買入れを減らすことにあったと考えられる。
図表 日本銀行が保有する長期国債保有額の変化
ところが、さらなる変動幅拡大への観測から、10年の国債利回りは新たな上限の水準まで一気に上昇し、日本銀行はそれ以前よりも大量の国債買入れを強いられるという皮肉な結果を招いてしまったのである(図表)。 2016年9月に導入されたYCCは、金融緩和の枠組みの一つというよりも、同年1月に決定されたマイナス金利政策導入が引き起こした長期・超長期の大幅下振れへの対応、そして、国債買入れを削減する狙いとして決定された措置と考えられる。しかし、昨年以来、YCCを維持するために、日本銀行は大量の国債買入れを強いられることになってしまった。まさに本末転倒である。以下では、このYCCの本来の狙いを振り返り、またYCCが抱える構造的な欠点を指摘しよう。
YCCは追加緩和とは言えない
長短金利操作付き量的・質的緩和の柱であるYCC導入の狙いは、大きく2つあったと考えられる。第1は、マイナス金利導入後に長期・超長期の利回りが大幅に低下したことから、それを安定化させることだ。長期・超長期利回りが大幅に低下すると、年金や生命保険の運用利回りが低下し、それが将来の年金や保険支払いの減少につながるとの見方が国民の間に広がり、個人消費に悪影響を及ぼす可能性がある。そこで、10年国債利回りに0%の目標値を設定し、長期・長期利回りの安定を図ったのである。ちなみに0%は、当時国債市場で付いていた10年国債利回りの水準を追認したものだ。従って、この政策は追加緩和策とは言えない。 もう一つの狙いは、長期国債の買入れを抑えることだ。長期国債の大量の買入れを進めると、国債の流動性低下などから市場が大きく混乱するリスクが高まる一方、将来の日銀の財務の悪化のリスクを高める。 しかしながら、長期国債の買入れ目標を削減すると、それは金融緩和の後退、正常化策となってしまう。そこで、「80兆円のめど」というソフトな目標は残しつつも明確な目標値を外したうえで買入れ額を減らし、さらにそれは、「買入れオペの結果であって、政策的に減少させたのとは違う」との説明をする。政策目標を「量」から「金利」に事実上戻すことで、そうした操作が可能になるようにしたのである。 2%の物価安定目標の達成を目指した「攻め」の政策は、マイナス金利政策までである。そこで大きく躓いた日本銀行は、「長短金利操作付き量的・質的緩和」を導入することで、長期にわたる異例の金融緩和の副作用を軽減する、正式ではない「事実上の正常化」策に転じたと解釈できる。それ以降の政策は、今に至るまで「守り」の性格が強い。 ただし、長期国債買入れ額については、2016年以降の縮小傾向が、あしもとではかなり巻き戻されてしまっている。これは、「事実上の正常化」の失敗ともいえるだろう。