日本に、ヤバい「インフレ危機」をもたらす…一部でまかり通る、いまさら聞けない「トンデモ貨幣理論」MMTの正体
耳障りのよい「失業者ゼロ」という言葉
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「MMT」はここ5年間で、日本で一気に広まったひとつの主張である。MMTはModern Monetary Theoryの略称で、直訳すると「現代貨幣理論」となる。 【マンガ】5200万円を相続した家族が青ざめた...税務署からの突然の"お知らせ" これはアメリカ合衆国ミズーリ大学教授であった経済学者L・ランダル・レイ氏やニューヨーク州立大学教授のステファニー・ケルトン氏らが中心となって主張しており、失業者をゼロにする雇用保障プログラム(JGP: Job Guarantee Program)を実現するための貨幣制度だ。 失業の解消はそれ自体とても素晴らしいし、完全雇用状態は目標としていつ何時も追求されてよいことである。 完全雇用達成のためには金融政策と財政政策の2つの領域からアプローチが必要だ。MMT論者のいう雇用保障プログラムは、失業者に政府が仕事を創って与えることを念頭に置いており、その財源が問題になる。 主たる歳入は税金と公債金(国債等による借入)で、特に日本のように中央政府・地方政府・社会保障基金を合わせた政府債務がGDPの260%を超えるような国では、雇用保障プログラムを新たな国債発行によって実施できるかは心配や懸念が大きい。
「政府の子会社化」する中央銀行
【図表1】現行の貨幣システム(出所:近廣昌志)
失業の解消という社会的な"正義なるもの"を掲げるMMTに、期待がかけられるのは無理もない。MMTは、説明のパーツ一つひとつは正しいものが多い。「誰かの負債は誰かの資産」という表現も、「銀行は貸出と同時に借り手の預金残高を設定することで預金貨幣が増大させる」という表現も正しい。 しかしこれらは、自動車の内燃エンジンの部品を持ち寄って、EVが造れると言っているようにもので、全体の設計図を眺めると構成がすり替えられている。それは、「銀行券ワールド」と「政府紙幣ワールド」とのすり替えである。 人類が長い歴史の中で政府と中央銀行を別組織にすることを善とする近代的貨幣制度を実現させてきた。主要国では中央銀行を政府から独立させており、政府がマネーを創って直接ばら撒く制度にはなっていない。 しかしそれは、たかだかここ200年弱のことではあるが、端的に言えば、両者のバランスシートを別物にすることが柱である(図表1)。一方のMMTは政府と中央銀行のバランスシートを一つにした「統合政府」を前提としている(図表2)。 バランスシートは昨今の大学入学共通テストでも重視されるほど、社会をみる眼を養うために最適な方法だ。人類の英知で切り離してきた中央銀行のバランスシートを、政府が「俺のもの」にしてしまうのがMMTの正体なのだ。