日本は大丈夫? 世界の長期債券が空前の下落、これがいま起きている本当の金融激震
株価の下落幅などこれまでの経験の範囲
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今年に入ってからの米国株を中心とする世界の株価下落が話題になっている。 たしかに米国の代表的な株価指数S&P500は今年1月の高値から10月の安値まで27.5%下落した後、やや値を戻し、現在は19%の下落だ。また新興企業の多いNASDAQ株価指数は昨年11月が高値で現在の水準はそこから31.5%下がっている(いずれも10月28日時点)。 【写真】日本でいま「利上げ」をすると何が起きるのか? しかしながら米国株式投資について多少長い経験のある投資家なら、この程度の下落は過去何度も見てきたものであり、驚くような下落ではない。実際1950年まで遡って景気循環に沿ってS&P500の景気回復期の高値から景気後退期前後の底値までの反落率を数えると、11回の反落があり、その平均反落率は約30%だ(今年の12回目の反落はまだ底が確認できないので含めていない)。 さらに景気後退にはならなかったがS&P500の反落が30%を越えたことが2回(1987年と2002年)ある。反落率の最大のケースはリーマンショック時のもので(2007~09年)57.7%、最小のケースは14%だ(1959~60年)だ。また、高値から底値をつけるまでの平均期間は10.2カ月である。 つまり米国の株式市場は株価指数で見て、5~6年に1回は平均30%前後の下落をしてきたわけであり、今年の下落局面もこれまでのところは平均的な下落率の範囲にとどまっている。
30年ぶりの大激震の債券市場
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むしろ米国を中心に世界的に稀に見る下落相場になっているのが長期債券市場だ。図表1は主要国の10年物国債利回りの推移である。米国、英国、イタリアの利回り急騰ぶりが著しい。米国についてさらに時間を遡って見ると(月末データ)、10年物国債利回りは現在4.01%であり、前年同月比で2.43%の上昇だ(2022年10月28日現在)。利回りが最も低かった2020年7月(0.62%)比では3.39%も上がっている。 同年同月比の変化でこれに匹敵する利回り急騰は94年10月の+2.41%であり、さらに遡ると1984年5月の+3.03%となる。つまり長期債券市場での利回り上昇は、株価と違って四半世紀ぶりの大激震だと言える。 ところがこう言っても、債券市場に馴染みの乏しい一般の方にはピンとこないだろう。債券価格と利回りは逆に動き、1%の市場利回りの変化がもたらす債券価格の変化は長期債券ほど大きくなる。これは金融・投資のABCのひとつにすぎないのだが、このことをきちんと理解している人は少ない。債券の価格が流通市場での売買で変動していることすら知らない人も多い。 基礎的な説明をすると、額面100円、年利息1%で発行された1年物債券は、価格が99円まで下落すれば、投資家は99円で買って1年後の期日には利息を加えて101円を受け取る。これは利回りにすると2.02%(=(101-99)/99)である。つまり1%の市場利回りの上昇で価格は約1%下落する。 ところが10年債だと(債券額面=価格100、年利息1%で発行された場合)、1%の市場利回りの上昇で価格は100から91.0へ9.0%も下落する。3%の利回り上昇(1%→4%)ならば価格は75.67となり24.3%の下落となる(債券利回りと価格の計算法は、単利法と複利法がある。単利法の計算は簡単だが、あくまでも近似的な計算であり、キャッシュフローの内部収益率で計算する複利法が正確なので、本論ではそれを使用している)。 この債券価格の下落度合いを先ほどの2020年以来の米国の10年物国債に当てはめれば、今回の債券価格の下落(利回り急騰)が、債券投資家にとって衝撃的な評価損をもたらしていることが分かるだろう。 ここで「たとえ市場での利回りが急騰しても、国債の場合は償還期日まで保有すれば、必ず約束された利息は払われ、元本は償還される。従ってリスクはないのではないか」と思う読者もいるだろう。それは決定的な理解不足だ。 市場の利回りが1%から2%に上がったにもかかわらず、利回りが1%の時に買った10年物債券を保有するということは、投資の世界ではそれは損失以外の何ものでもない。とりわけ年金運用機関や生損保のように長期で多額の資金運用をしている機関投資家は、債券も株価も時価評価で運用成績を管理しており、時価評価による損失がそのまま実績となる。