日本経済の命運決める日銀人事、下馬評通りなら「赤信号」 「何をやるか」よりも官僚組織の順番が優先
【ニュース裏表】
永田町の裏で、日本経済の命運を決める人事が進行中だ。来年4月に任期を迎える日本銀行の正副総裁人事のことである。アベノミクスの中核として、「大胆な金融緩和政策」を担った黒田東彦(はるひこ)総裁の後継はいったい誰なのか。マーケット関係だけではなく、国民生活そして国際経済にも影響の大きい人事だ。
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特に日銀総裁は経済の行方を決定的に左右する役割を持っている。安倍晋三政権が長期政権であった理由は、安倍元首相が日銀の金融政策の重要性を誰よりもよく理解していたからだ。
金融政策というと株価や為替レートに影響を与えるだけだ、という人が多い。それだけではない。金融政策は物価をコントロールすることで、雇用を改善して、経済成長につなげる。これは経済政策の基本のキなのだが、それが理解できない政治家や官僚ばかりなのが今の日本の状況だ。それを突破した安倍元首相の貢献は大きい。
国葬をめぐる世論調査で、若い世代ほど賛成が多いのは理由がある。第2次安倍政権以降、大幅に改善した雇用状況の恩恵を最も受けたのが、若い世代だからだ。その意味では、金融政策は日本の未来を支える政策のひとつだといえる。
菅義偉政権でもこの金融政策重視の姿勢は継承された。しかし現在の岸田文雄政権には黄色信号が点灯している。なぜなら岸田首相の金融政策に対する理解や情熱は、安倍元首相に比較するとはるかに乏しいからだ。むしろ「失われた20年」を生み出した財務省や古い日銀の体質に近い。つまりは緊縮政策こそ岸田首相の本願であろう。
日銀の政策は、総裁と2人の副総裁を執行部として、他に審議委員を加えた9人の多数決によって決める。政策の具体的な提案は、執行部が提起する。特に総裁の考えは決定的に重要だ。
下馬評レベルでは、日銀出身の雨宮正佳副総裁か、中曽宏大和総研理事長(前日銀副総裁)が有力といわれている。黒田総裁が財務省出身なので、今度は日銀プロパーの番という安易な発想が根っこにまずある。「何をやるか」よりも官僚組織の順番が優先されるのだ。そしてこの種の官僚的な人事が大好きなのが、今の岸田首相なのである。
岸田首相はしばしば「検討使」と言われるが、その実態は官僚たちが文句を言わないように調整中、ということに尽きる。国民の生活目線ではないのだ。副総裁候補には、消費増税に賛同する財務省好みの人材が噂されている。
この下馬評通りに、もしポスト黒田が決まってしまえば、日本経済には鮮烈な赤信号が灯りかねない。 (上武大学教授 田中秀臣)