暮らし向き改善「30代4人世帯」だけが突出、女性の正規雇用増加がもたらすインパクト
7月10日に投開票が行われる参議院選挙の1つの論点が、家計の暮らし向きの変化だ。 与党は日本全体での賃金の総額が(物価を加味した)実質でも上昇傾向にあるとして実績を強調する一方で、野党は雇用者1人あたりで見た実質賃金の低下傾向が続いていると批判している。 【全画像をみる】暮らし向き改善「30代4人世帯」だけが突出、女性の正規雇用増加がもたらすインパクト 「日本全体の賃金総額の増加」と「1人あたり実質賃金の低下」は、実は矛盾しない。 2012年から2021年にかけて、女性や高齢者を中心として日本全体で雇用は477万人増えた。新たに働き始めた人や定年後再雇用された人の賃金水準は、労働者の平均的な賃金水準より低い。このため、これらの雇用の増加は、日本全体で見た賃金総額を増加させる一方、労働者1人あたりの賃金水準を押し下げるのだ。 それでは、世帯で見た暮らし向きはどう変化しているのだろう。大和総研では、(1)20代単身男性、(2)20代単身女性、(3)30代4人世帯、(4)40代4人世帯、(5)50代4人世帯の5つのモデル世帯を設定し、第2次安倍政権以後の9年間の暮らし向きの変化を推計した(※)。すると、全体として暮らし向きはほぼ横ばいとなる中、(3)30代4人世帯だけが突出して暮らし向きが改善していることが明らかになった。 ※詳細な推計結果は、是枝俊悟・渡辺泰正「2012~2021年の家計実質可処分所得の推計」(大和総研レポート、2022年6月14日)を参照。 編集部注:同レポートにおけるモデル世帯の構成は、ケース数を絞りつつ現役世代の幅広い年齢・性別の賃金動向をカバーするため5ケースに絞られています
給付金の支給もありコロナ禍でも家計の暮らし向きは悪くない
第2次安倍政権発足時点の2012年に家計が使えるお金(実質可処分所得)を100として、その後の推移を見たものが次の図表1だ。 全体としては、2012年から2014年にかけては、世帯年収の増加が消費税率引き上げなどによる負担の増加に追いつかず、実質可処分所得が減少傾向にあった。しかし、2014年から2019年にかけては負担増を上回るペースで世帯年収が増加することにより実質可処分所得が増加するトレンドにあった。 2019年から2020年にかけては、コロナ禍で賃金や女性の就業率が低下したこと、および消費税率10%が通年化したことが実質可処分所得の下落要因となったが、2020年に支給された1人あたり10万円の特別定額給付金の影響が大きく、(2)~(5)の4つのモデルで実質可処分所得が増加した。 2020年から2021年にかけては、特別定額給付金がなくなった影響が大きく、5つのモデル全てで実質可処分所得は減少した。ただし、(3)~(5)の3つのモデルでは、2021年に18歳以下の子ども1人あたり10万円の給付金が支給されていることもあり、2021年の実質可処分所得はケース(1)~(5)の全てで概ね2012年と同等以上を確保している。 給付金も含めると、コロナ禍にあっても平均的な家計の暮らし向きは悪くなっていなかったことが確認できる。