欧米で利上げラッシュなのに何もしない日本では「悪いインフレ」が長期化する
欧米諸国の利上げが相次いでいます。歴史的な物価高騰に対する危機感から、イングランド銀行(イギリスの中央銀行)は8月4日、0.5%の利上げを発表しました。2021年12月以降6回連続の利上げで、上げ幅はこの30年ほどで最大でした。 これに先立ち、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は、2カ月連続で0.75%という大幅な利上げに踏み切っています。欧州中央銀行(ECB)も7月に0.5%の利上げを決定し、2014年6月に導入したマイナス金利政策を解除しています。
■なぜ日本では利上げの動きがないのか 一方、日本も物価高騰に苦しんでいますが、日銀に利上げの動きはありません。その違いはどこにあるのでしょうか。また、日本はこのままで大丈夫なのでしょうか。 まず「物価」について考えてみましょう。消費者の立場からすると、モノやサービスの価格が安くなるのは助かりますが、経済全体でみると必ずしもそうではありません。長期にわたって価格の下落が続くと、モノよりも現金の価値が上がるのでお金を使わなくなり、消費全体が縮小します。
需要が減ると、企業も利益が減るので賃金や設備投資を抑制し、経済全体がスパイラル的に落ち込みます。これが「デフレ」の状態です。では物価はどういう状態が好ましいのでしょうか。 消費者の感覚とは異なりますが、物価は「持続的に上昇(=インフレ)」するほうがよいのです。しかし、そこには重要な点が二つあります。まず物価上昇を上回って「賃金も上昇する」ことです。景気が良いときは、需要が増えるので物価はあがりますが、物価上昇を上回って賃金が上昇すれば「購買力」があがり、さらなる消費につながります。
逆に、物価が上がる中で、賃金が十分上がらなければ、生活は苦しくなります。もうひとつは、物価の上昇幅が「緩やか」なことです。賃金の上昇幅が大きすぎると、企業のコストが急増し、それが価格に反映され、ある段階で物価上昇が制御できなくなります。いわゆる「ハイパーインフレ」になると、通貨が信用を失い、経済自体が大混乱します。 物価上昇を上回る賃金上昇を伴い、かつ、物価の上昇幅が緩やかであれば、持続的な経済成長につながる「よいインフレ」ですが、物価が賃金を上回って上がる場合や、制御不能になりかねない物価の急上昇は「悪いインフレ」です。