焦点:国内生保、22年度下期は円債回帰へ ヘッジ外債からシフトも
植竹知子
[東京 26日 ロイター] - 国内主要生保は2022年度下期資産運用で、円建ての超長期債投資に回帰する動きを一段と強める。米国のインフレ動向やウクライナ情勢など不透明要素が多く、金融政策や金利・為替の先行きが見通しづらいためだ。為替ヘッジコストの高騰を背景に、ヘッジ付き外債から一部資金を円債にシフトする向きも目立つ。
<30年金利が8年ぶり高水準>
ロイターが25日までに実施した国内主要生保10社に聞き取りによると、今年度下期に超長期国債中心に円債を積み増す計画が多い。第一生命が「30年・40年の超長期ゾーンが基本。下期は(買いペースを)やや加速する形で多少のメリハリをつける」と話すほか、明治安田生命も「上期4割、下期6割」を念頭に下期に買いの比重を置いている。
足元で一時1.685%と8年ぶり高水準まで上昇した30年国債利回りについては、「それなりに投資妙味がある、買って良い水準」(明治安田)、「1.6%付近と魅力的な水準になりつつある」(朝日生命)、「相対的にも絶対的にも投資妙味は出てきた」(かんぽ生命)といった声が聞かれた。
また、住友生命が「1%台後半であれば追加的な(資金)投入も検討できる」と前向きな一方で、日本生命は「過去数年と比べて投資しやすい環境というのは事実。ただ、積極的に買っていくにはまだ距離がある」と指摘するように、若干の温度差もあるようだ。
背景には、各社の負債コスト(利回り)の違いがある。日本生命は「全体を平均して2%程度」だが、住友生命は「2%弱から1%台後半。1.75%なら問題なくカバーできるかと言えば足りない可能性もあるが、低金利環境で新規契約の負債コストは下がっており、負債の中長期的なコストを踏まえた時に1%台後半は投資できる水準」だという。
このほか、富国生命では「20年・30年金利は1%を超えてきている。さらなる金利上昇を待たずとも一定量を購入していいと判断した」として、年度計画で予定した増額分をほぼ終了する円債買い入れを上期のうちに実施した。
<ヘッジ外債の妙味薄れる、円債シフトも>
国内生保は円建ての負債を抱えており、資産・負債管理(ALM)の観点から日本国債などの円建て資産で運用するのが望ましいというのが共通の考えだ。ただ、これまでは長引く超低金利環境による運用難を打開するため、各社ともに円債には慎重姿勢をとり代わりに外貨建ての高利回り資産に積極投資してきた経緯があった。
しかし、下期運用方針の策定を巡っては「ヘッジ外債の投資妙味が薄れている」(かんぽ生命)と指摘する声が複数上がった。米国のハイペースな利上げでヘッジコストが急上昇したことなどが背景にある。
ドルのヘッジコスト(3カ月物の為替予約)は、3月末の1.0%からわずか半年で4.3%に上昇。第一生命では「年度初めに思ったよりだいぶ上がっている」と受け止めているほか、明治安田生命は年度末には4.8%ともう一段の上昇を見込む。そうなるとヘッジ後利回りでは、米国債の投資妙味はゼロかマイナスとなってしまう計算だ。
日本生命や住友生命などがヘッジ外債の国債などを圧縮する方針であるほか、太陽生命やかんぽ生命は「ヘッジコスト考慮後では、ヘッジ外債の国債や社債よりも日本の30年国債の方が妙味がある」として、ヘッジ外債から円債への資金シフトを行う考えを示している。
<含み損益が大幅悪化、運用への影響は限定的>
上期末時点の有価証券の含み損益(速報ベース)は、国内外の金利が大きく上昇したことを受けていずれも21年度末比で大幅に悪化した。
ただし「含み益は10兆円からは大幅に減ったがまだ7兆円あるので、投資行動への影響はあまりない」(日本生命)との指摘や、「われわれは長期投資家であり多くのものは満期まで持つ前提にしており、保有期間の途中での含み損は一定程度許容できる。入れ替えなどで売却損が出ることもあるが、財務的なバッファーもあり、運用において大きな制約はない」(住友生命)などの声が聞かれた。
※「国内主要生保の2021年度下期資産運用計画・市場見通し」一覧はこちらでご覧いただけます。
(植竹知子 取材協力:金融マーケットチーム 編集:伊賀大記)