米中間選挙、なぜ重要なのか 5つの理由
アンソニー・ザーカー北米担当記者
アメリカの中間選挙が8日、投開票される。国の方向性と、政権を担う政治家や政党の運命に大きな影響を与える。
ジョー・バイデン大統領は候補者ではない。中間選挙は、連邦議会と州議会、州知事のいすを誰が制するかを決める。ただ有権者は、バイデン大統領と現在の国の方向性について、間接的に評価を示す機会を得る。
米経済は低迷し、有権者には犯罪や不法移民への懸念が広がっている。そうした状況で、現職大統領に厳しい審判が下される可能性もある。さらに、選挙結果は2024年の大統領選に影響を及ぼす。特に、ドナルド・トランプ前大統領の再立候補の確率を大きく変えることになるだろう。
今回の中間選挙は非常に重要だ。その理由を5つ、以下に説明する。
■1. 中絶の権利か制限か
連邦議会の構成が変わると、米国民の日々の生活に直接影響が及ぶ。人工妊娠中絶がそのよい例だ。
連邦最高裁は6月、憲法で保護されてきた中絶の権利を覆した。両党はすでに、中間選挙で議会を制した場合に提出する新たな法案を明らかにしている。
民主党は、女性の中絶する権利を守ると約束している。一方、共和党は、妊娠15週以降の中絶を全国的に禁止する方針だ。
州レベルでは、知事選やその他の地方選の結果によっては、さらなる中絶規制が州内で課される可能性がある。ペンシルヴェニア、ウィスコンシン、ミシガンなど、伝統的に激戦が繰り広げられている州の結果が注目される。
連邦議会の主導権を誰が握り、州の政権を誰が担うのかは、中絶以外にどのような政策が重視されるのかにも影響を与える。
もし共和党が勝てば、移民、信仰上の権利、暴力犯罪への対処が優先課題となると予想される。
民主党が勝利すれば、環境、医療、投票権、銃規制が引き続き重要な課題となるだろう。
■2. 共和党が民主党を調査する転換点になるか
今回の中間選挙の影響は、政策の枠を超える。
連邦議会を制すれば、委員会の調査を開始する権限を得ることになる。
この2年間、民主党はホワイトハウスに関する調査を限定し、昨年1月6日にあった連邦議会襲撃事件に主に焦点を当ててきた。
当時のトランプ政権が事前に何を知っていて、どのように対応したのかを解明しようと、何百もの人々にインタビューをし、テレビのゴールデンタイムに公聴会を開いてきた。年内に報告書を公表する予定となっている。
しかし、これらはすべて変わりそうだ。すでに下院の掌握を見込んでいる共和党は、議会襲撃事件の調査委員会を閉鎖し、バイデン大統領の息子ハンター氏の中国とのビジネス関係を調べる公聴会を立ち上げるとしている。
共和党はまた、バイデン政権下での移民政策や米軍のアフガニスタン撤退、新型コロナウイルス大流行の中国における起源などについても調べたい考えだ。
もし共和党が上院も握れば、バイデン氏が指名した連邦裁判所や主要政府機関の人事は、承認が行き詰まることが予想される。
■3. バイデン大統領の将来
中間選挙は通常、大統領任期の最初の2年間に対する評価を示すものと考えられている。多くの場合で、政権与党にとって厳しい結果となる。
バイデン氏の支持率は1年以上低調だ。民主党の勢いは夏に回復したかに見えたが、中間選挙の選挙戦終盤になって、インフレと経済への懸念が再燃。現時点で議会の上下両院を握っている民主党は、その維持に向け、苦しい戦いを強いられている。
バイデン氏は大統領就任からの2年間、与党の議会での優勢はわずかであるにもかかわらず、気候変動、銃規制、インフラ投資、子どもの貧困に関する新たな法律を推し進めてきた。
だが、上院か下院のどちらかでも共和党が掌握すれば、共和党は民主党提出の法案が議会を通過するのを止める力をもつ。その結果、行き詰まりが生じることになる。
民主党が大敗すれば、バイデン氏の政治的な弱さがあらためて浮き彫りになったと解釈されるだろう。2024年大統領選の時期になれば、バイデン氏は別の民主党候補のために身を引くべきだとの声が高まる可能性がある。
ただ、バイデン氏と側近らは、再選を目指すと主張している。現職大統領が党内の予備選で失脚したことは、近代米政治では1度しかない。
■4. トランプ氏は再び立候補するのか
近年の大統領選における他の敗者たちとは異なり、トランプ氏は静かに政界を去ることはしていない。
2024年大統領選でホワイトハウスに戻る考えを、トランプ氏はまだもっていると思われる。中間選挙の結果次第で、同氏はその姿勢を強めることも、逆に望みを断たれることにもなりうる。今回の選挙でトランプ氏は候補者ではないが、彼が選んだ何十人もの候補者が、アメリカ中の注目の選挙で立候補している。
トランプ氏は、共和党のベテラン指導者たちの反対がある中で、伝統的な同党政治家たちを抑える格好で、何人かを党の上院議員候補に押し上げた。元アメフト選手のハーシェル・ウォーカー氏(ジョージア州)、テレビ司会者で医師のメフメト・オズ氏(ペンシルベニア州)、ポピュリスト作家JD・ヴァンス氏(オハイオ州)らだ。
もしこれらの候補が勝てば、トランプ氏の政治的直感が鋭いことと、同氏の保守政治というブランドが全国的なアピール力をもつことの証明になりうる。一方、共和党が議会を掌握できず、その原因はトランプ氏の型破りな指名候補が勝てなかったせいだとなったら、同氏は責任を負うことになるかもしれない。
そのような結果は、共和党内でトランプ氏と大統領選候補を争う人たちの希望を高めることになる。フロリダ州のロン・デサンティス知事とテキサス州のグレッグ・アボット知事はともに、今回の選挙で再選を目指しており、その結果をばねに、2024年大統領選の共和党の指名獲得に向けて選挙戦を展開する可能性がある。
■5. 選挙否定派が選挙を仕切るのか
今回の中間選挙は、トランプ氏の支持者がバイデン氏の大統領選勝利の認定を阻止しようとした議会襲撃事件以降で初の連邦レベルでの選挙となる。
トランプ氏はこの暴動で懲りるどころか、選挙結果を疑問視し続け、トランプ氏が勝利を奪われたと主張する共和党候補を積極的に支援している。
そうした候補者の多くは、2024年大統領選での各州の選挙制度をある程度コントロールできるポストに立候補している。アリゾナ州の州務長官候補マーク・フィンチェム氏、ネヴァダ州の州務長官候補ジム・マーチャント氏、ペンシルヴェニア州の知事候補ダグ・マストリアーノ氏といった面々だ。
彼らが当選すれば、それぞれの州で選挙が接戦となった場合、結果の認定を拒否することもありうる。
彼らはまた、選挙で不正があったとする訴訟に加わったり、郵便や投票箱による投票など、特定の投票方法を制限する新たな規則や規制を制定したりできるようになる。
2020年大統領選では複数の州で、選挙で選ばれた共和党の公職者たちが、トランプ氏から結果の一部を覆すよう圧力を受けたものの、それを拒否した。
2年後の大統領選も同じように接戦となった場合、同種の要求の結果は全く異なったものになるかもしれない。
(英語記事 Five reasons why US midterm elections matter)