繰り広げられる与野党の財政〝支出合戦〟 止まらない円安に不安が募る物価高 政治に課せられた国家と国民の豊かさ直視
【ニュース裏表 安積明子】
日本経済が難局に直面するなか、立憲民主党は14日、総額7・2兆円の「緊急経済対策」案を発表した。18歳までのすべての子供への10万円給付や、政府が計画する低所得世帯への5万円給付の枠をより広げた構想が売りで、「家計を支える」「事業を支える」「省エネ・再エネ投資」の3本立てで構成されている。
【グラフでみる】日本国民の平均年収推移
泉健太代表は「コロナ禍、物価高騰、低賃金、年金減少という4重苦の『生活氷河期』を乗り越えるための対策だ」と胸を張るが、その内容は政府が先月、閣議決定した3・5兆円の経済対策を強く意識したものだ。
政府が10万円給付対象とした低所得世帯の8割が老人世帯なのに対して、立憲民主党は「子供」にもターゲットを拡大した形だ。
その政府も15日、妊婦を支援する「出産準備金」を第2次補正予算に盛り込み、既存の出産育児一時金の大幅増額検討で公明党と合意した。与野党の〝財政支出合戦〟はエスカレートする一方だが、問題は、こうした支出が経済成長につながるか、否かということだ。
内閣府が2月に公表した調査によると、政府が支出したコロナ対策費は事業規模で293兆円に達した。GDP(国内総生産)の54%にあたる額で、日米欧の主要国では最高だった。ところが、2021年7~9月期までの景気回復では欧米や中国に出遅れたという。
原因とされたのは、断続的な蔓延(まんえん)防止措置の実施や、ワクチン接種の遅れで、政策判断の難しさが伺える。
変異株「オミクロン株BA・5」の流行で感染規模が拡大した第7波が収束しつつあり、11日からは水際対策が緩和された。入国者数上限が撤廃され、インバウンド効果に期待が寄せられるが、止まらない円安に物価高の不安は募るばかりだ。
円安の主な原因は日米金利差とされるが、日銀の黒田東彦総裁は来年4月の任期まで「景気後退を阻止」するためにゼロ金利政策を死守するだろう。しかし、日本経済に猶予はない。
ある自民党議員は「後任の日銀総裁は欧米に倣って徐々に金利を上げざるを得ないだろうが、それまでに日本経済を成長軌道に乗せ、国民所得を増やさなければならない」と焦りをにじませる。
国民民主党は、総供給が総需要を上回る「デフレギャップ」に着目し、9月、23兆円規模の経済対策案を発表した。ただ、これにしても、加速度的に進んだ円安で、ギャップの規模を見直す必要があるだろう。
政治に課せられているのは、国富の増大と、国民一人ひとりの豊かさとを同時に実現させることだ。支持率低迷にあえぐ岸田文雄政権の命運は、この責務の実現にかかっているといえまいか。 (政治ジャーナリスト 安積明子)