習氏3選で本腰「台湾奪取」 軍事的脅威に戦略的発想ゼロで“国際的地位低下”の岸田政権、同盟国は林外相にも疑心暗鬼 円安加速も危うさの背景に
【ニュースの核心】
安倍晋三元首相が凶弾に倒れて、8日で2カ月となった。中国やロシアによる軍事的脅威が高まるなか、永田町では「国葬(国葬儀)」の意義や、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と政治の関係ばかりに焦点が当たっている。岸田文雄首相と林芳正外相の「ケジメなき外交」によって、日本の国際的地位は急激に低下した感がある。「台湾有事、日本有事」が現実味を帯びるなか、日本と日本人は大丈夫なのか。ジャーナリストの長谷川幸洋氏が警鐘を鳴らした。
安倍氏が急逝して2カ月が経過した。暗殺事件の真相が明らかになったかと言えば、殺人容疑で送検された山上徹也容疑者が精神鑑定を受けているせいもあって、事件直後に報じられた内容以外、メディアには事件に関わる情報が、ほとんど漏れてこない。
その代わり、テレビなどが連日、報じているのは旧統一教会の実態と、「国葬」をめぐる是非論だ。意味がない、とは言わないが「それより、もっと大事な国益に関わる話を伝えてくれ」と思っている国民も多いのではないか。
日々のニュースを対象に仕事をしている私でさえ、最近の報道には食傷気味どころか、関心が薄れてしまった。
こうなったのは、岸田政権に理由の一端がある。いま日本にとって、何が一番大事なのか、発信力があまりに乏しいのだ。
例えば、台湾問題はどうか。中国共産党は10月16日から北京で党大会を開くことを決めた。習近平総書記(国家主席)が「3選」される見通しなので、習氏は党大会以後、いよいよ「台湾奪取」に本腰を入れるだろう。
先週も指摘したが、もしも、このたくらみが成功すれば、日本は原油を輸入するシーレーン(海上交通路)の首元を抑えられ、「潜在的なエネルギー危機」が常態化する。だからこそ、原発の再稼働や新増設を含めて、いまのうちからエネルギー確保の多様化に全力を挙げなければならない。
あるいは、ロシアのウクライナ侵略戦争はどうか。
米国のジョー・バイデン政権は「ウクライナ防衛」だけでなく「ロシア打倒」を目指して、数年先を見越した軍事支援を本格化させている。
だが、米国内には「ウクライナに入れ込みすぎるな。真の敵は中国だ」と警鐘を鳴らす意見もある。私が米国でインタビューしたハーバード大学のステファン・ウォルト教授がそうだし、共和党のジョシュ・ホーリー上院議員もそうだ。彼らは、中国に対する軍事対応力がそがれる事態を心配しているのだ。
米国は「ウクライナ後の世界」をにらんで、戦略論争を活発化させているが、日本は電力不足のような目先の事態に追われるばかりで、戦略的発想がまったくと言っていいほど、感じられない。
中国との距離的近さを見れば、「台湾危機(台湾有事)」でもっとも深刻な打撃を被るのが、日本であるのは明らかではないか。
当事者がこの調子では、日本の存在感が薄れるのも当然だ。林芳正外相が「政界随一の親中派」であることは、同盟国がみな知っている。存在感発揮どころか「日本は頼りにならない。いつ裏切られるか」と、半ば疑心暗鬼で見られているのだ。
最近の円安加速も「日本の危うさ」が背景にある、と私はみている。地政学的にも、かつ経済面でも、まだ中国に入れ込んでいるからだ。
そんななか、英国にエリザベス・トラス新首相が就任した。彼女はロシアだけでなく、中国に対しても強硬派で知られ、中国を「英国にとっての脅威」と認定する見通しだ。日本の力強い味方になるに違いない。
ぜひ、早い機会に日英首脳会談を開いて、岸田首相に「喝」を入れてもらいたい。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。