習近平政権から資産家が〝逃避ラッシュ〟 米議会の台湾政策法が揺さぶり 「習主席はやりすぎた」共産党員から批判も
【お金は知っている】
都内某所で知り合いの中国専門家に遭遇した。無論、中国籍である。近く北京で開かれる中国共産党大会での習近平党総書記・国家主席の総書記3期目就任について聞いてみた。素直に反応したのには驚いた。
【表】近年の米国から台湾への大型武器売却決定
「習主席はやりすぎましたね。アメリカに対してカッカし過ぎです。中国がアメリカと対立し、敵視されると何一つよいことはありませんからね」
言論の自由の日本にいるからこそ聞こえる中国人の本音なのだが、この人物は明らかに中国共産党員であり、日本での情宣活動を担っている。こうした特殊任務を持つ在日中国人は大使館から常時、言動を監視され、本国に帰国したときは党から査問を受けると同時に、対日工作の指図を受けている。従って、まかり間違っても党中央の路線から外れるような発言はしないはずだ。そんな党代弁者が習批判発言というわけだから、ただ事ではない。
中国から伝わってくる情報からみて、習氏の米国への対決路線が党長老から批判を浴びていることは確かだが、党大会を控えた党中央内部でも広がっている可能性は十分あるだろう。
2012年秋に総書記に就任した習氏の対米路線は鄧小平以来の「韜光養晦(とうこうようかい)」(能あるタカは爪を隠すという意)を放棄し、超大国として米国に対峙(たいじ)するというもので、代表例が拡大中華経済圏構想「一帯一路」や、南シナ海への海洋進出などの対外膨張政策、それらと一体化した軍拡である。今年2月初旬の北京冬季五輪開幕式に出席したロシアのプーチン大統領とは「限りない友情と無制限の協力関係」を共同声明に盛り込んだ。ロシアのウクライナ侵攻が始まるのに合わせ、台湾への軍事侵攻に踏み切りかねなかった。
ところがウクライナは米国など西側の軍事支援を背景にロシア軍を押し返しつつある。中国が軍事面などで対露支援すれば金融制裁すると、3月に米バイデン政権からの警告を受けて以来、習政権は対露支援を目立たないように抑制せざるをえない。
さらに党内を揺さぶるのが米議会超党派による「台湾政策法」制定の動きだ。米上院外交委員会は9月中旬、圧倒的多数で「台湾政策法案」を可決した。法案は、中国が対台湾または台湾内での敵対行為をエスカレートさせる場合、大統領は中国の大手銀行3行以上に対し米金融機関とのドル取引を禁じることができる、というものだ。
筆者独自の分析では、中国の通貨金融制度は「準ドル本位制」で、ドルがなければ人民元の発行が困難で経済危機に見舞われる。
グラフがそれを端的に示す。習政権下の景気はしょせん不動産開発投資次第であり、住宅バブルがはじけると砂上の楼閣のごとく消えうせる。奈落に落ち込む前にとばかり、中国の既得権、富裕層はシンガポールに資産ごと逃避ラッシュである。円安の日本の不動産を買い占める動きも活発なのだから、決して対岸の火事では済まないはずだ。 (産経新聞特別記者・田村秀男)