英ポンドが大幅下落、トラス新政権の減税政策に懸念
ヌール・ナンジ、ビジネス記者、BBCニュース 23日の外国為替市場で、英ポンドが対ドルで37年ぶりの安値を付けた。リズ・トラス新政権による、過去50年で最大規模の減税政策に反応した格好。 ポンドは対ドルで一時3%以上下落し、1.09ドルとなった。対ユーロでも1%以上下げて1.12ユーロだった。 株式市場でもイギリスの株がおおむね下げており、ロンドン証券取引所(LSE)ではこの日、FTSE100指数が2%下落。英国債の利回りも急騰し、価格が下落している。 クワジ・クワーテング財務相は、「市場の動きにはコメントしない」としている。 クワーテング財務相はこの日、財政刷新に向けたさまざまな減税と経済政策を発表。2027年までに450億ポンドの減税となり、「スタグネーションのサイクルを成長のサイクルに変える」ものだと述べた。 一方で財務省は、一連の政策により公的債務が720億ポンド増えることになるとしている。 米通信社ブルームバーグのデータによると、イギリスの主要金利は2023年8月に5.2%に達する見込み。中央銀行のイングランド銀行は、今年11月の金融政策委員会で1パーセントポイントの利上げに踏み切ると予想されている。 英シンクタンク「財政研究所(IFS)」のポール・ジョンソン所長は、今回の市場の反応は、英政府の新戦略が投資家の国内借り入れに依存していることへの「懸念」だと指摘した。 「この計画は、上昇を続ける金利で多額の借金をし、政府債務を持続不可能な増加軌道に乗せた上で、経済成長が改善するよう期待するもののようだ」 ジョンソン氏は、新戦略によって高インフレの中で需要が増加すれば、物価がさらに高騰するリスクがあると述べた。また、イングランド銀行は同時期に政府とは真逆に向かっており、450億ポンドの減税措置に対応するための利上げに踏み切る可能性が高いと話した。 ドイツ銀行のストラテジスト、ジョージ・サラヴェロス氏もイングランド銀行は早ければ週明けにも、「市場での信頼を回復する」目的で、予定外の緊急利上げをする必要があると指摘。こうした動きは、同行の「何があろうとインフレを下げたいという意志」を表していると述べた。 イングランド銀行は22日、政策金利を過去14年で最高水準となる2.25%に引き上げると発表。イギリス経済はすでに景気後退(リセッション)入りしている可能性があると警告している。 ラリー・サマーズ元米財務長官はブルームバーグの取材で、ポンドが1ドルを割る可能性があるとし、「非常に残念だが、イギリスのふるまいは、新興国が自ら没落していく様子に似ていると思う」と述べた。 「イングランド銀行はブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)を境に時流から大きく遅れてしまったが、ここに来てのこの財政政策によってイギリスは、最悪のマクロ経済政策を追求した主要国になるだろう」 ■イギリスの新財政戦略とは ボリス・ジョンソン前政権は、公共サービスへ投資するために増税していたが、クワーテング財務相は増税政策は「イギリスの競争力に傷をつけるもの」だとし、「ミニ・バジェット(小さな予算)」と題した新政策を発表した。 新政策では、所得税を1パーセントポイント下げて19%とする計画を1年前倒しし、来年4月に施行。また、住宅購入の際に支払う印紙税の対象額を引き上げたほか、初めて住宅を購入する人々への優遇措置も加えられた。 しかし最大野党・労働党のレイチェル・リーヴス影の財務相は、「保守党は生活費危機を解決できない、なぜなら保守党こそが生活費危機だからだ」と批判。過去のトリクルダウンに戻っただけだと述べた。 野党・自由民主党のサー・エド・デイヴィー党首も、「保守党は請求書の支払いに苦労している家庭の事情が、まったく分かっていない」と指摘した。 (英語記事 Kwarteng: Major tax cuts herald new era for UK/ Pound sinks as investors question huge tax cuts)
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