遅れて乗った中央銀行万能論 日銀は複数のシナリオを想定して発信・行動せよ
日本銀行が"異次元"金融緩和に踏み出して9年半。実験的政策の帰結から何をくみ取るべきかを識者に問う。ストラテジストの黒瀬浩一氏は、世界的にリスクがデフレからインフレへと転換するなか、日銀は複数のシナリオを想定して発信・行動すべきと指摘する。 運用成果で負けなしのストラテジストと評される。その秘訣(ひけつ)は、短期の相場に振り回されず、時代の大きな流れを捉える視座にある。異次元緩和はどう映るのか。 黒瀬 日銀が異次元の金融緩和を導入した当時、世界的に「中央銀行万能論」といえる雰囲気があった。2008年のリーマン・ショックと10年の欧州債務危機に対し、金融緩和で乗り切ることに成功していた。「インフレは起きても金融引き締めで止められるが、緩和が不十分であれば、日本のようにデフレ均衡に入ってしまうから、デフレこそ避けなければならない」と考えられていた。 日本もその流れに遅れて乗り、13年に異次元金融緩和が始まったこと自体は、当時の時代環境からすれば正しかった。 米欧では金融緩和が効いたのに、どうして日本では効かなかったのか。それは、表面の原因と結果の裏に付帯条件があるからだ。付帯条件が整っていなければ、結果は出ない。金融政策に限らず、米欧の政策を日本に導入した際に往々にして起きることだ。 金融緩和が効果を及ぼす付帯条件として日本に欠けていたのは、インフレ期待と金融機関のリスクテーク、それに賃金上昇だ。 15年6月の黒田東彦日銀総裁のピーターパン発言(「飛べるかどうかを疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう」と政策効果を信じる姿勢を強調)の頃には、私は異次元緩和を手じまうべきだと考えていた。 しかし当時、株式市場で盛んにいわれていたのは、「日銀が緩和を手じまえば株価が下がる」との脅しだった。株価上昇の要因は1株当たり利益の向上だが、短期の需給要因ばかり強調する市場を日銀は気にしたのだろう。
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