震源地はイタリア、投資家が注視すべき9月以降のユーロ売り

2022年08月12日

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)  既報の通り、欧州中央銀行(ECB)は7月21日の政策理事会で、一部加盟国の利回り高騰(域内金融市場の分断化現象)を念頭に伝達保護措置(TPI:Transmission Protection Instrument)の導入を決定した。ユーロ圏にはドイツのような財政健全国と脆弱国が存在しており、単一通貨圏内の中で金利差が拡大する「分断化」が起きている。円滑な金融政策の妨げとなる「分断化」に対応するための措置である。 【グラフ】ECBのイタリア国債保有比率は既に資本金出資比率を上回っている  今回のTPIにより、流通市場において当該国の国債や地方債を際限なく購入できることに一応はなっている。「一応は」と枕詞を付けたのは、TPIの発動条件が余りにも厳格であり、金融市場では「恐らく使われないだろう」という思惑が根強いためである。現に、ラガルドECB総裁も記者会見で「使わない方が良い」と述べている。  かつての無制限国債購入プログラム(OMT)がそうであったように、「抜かずの宝刀」として機能することが期待されているようだが、今のところ、懸案のイタリア10年債利回りは高止まりしたままだ(図表1)。  【図表1】  TPIを「抜かずの宝刀」と位置付けたうえで、分断化対応策に関して、ラガルド総裁はパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)を柔軟的に活用することが「最初の防御壁(the first line of defence)」だと明言している。このため、当分はECBが2カ月に1回公表するPEPPの運用状況に注目する必要がある。  PEPPの柔軟化とは、実態としては「健全国の国債の償還金を脆弱国の国債に再投資する」ということである。

■ 「ドイツを売ってイタリアを買う」は鮮明  PEPPの新規購入は今年4月以降停止しているため、発表される運用状況で注目すべき点は、「どのように再投資され、リバランスされているのか」という一点に絞られる。  PEPPの運用状況は2カ月単位で公表され、8月初頭には6~7月分の再投資状況が公開されている。  公表資料を見れば一目瞭然だが、6~7月はドイツやフランスやオランダの国債が大きく売られる一方、イタリアやスペインやギリシャの国債が大きく買われており、既にECBが再投資の柔軟化に着手していることが分かる。  具体的な数字を見ると、特にドイツ国債の売り越し額は▲143億ユーロで、イタリア国債とスペイン国債の買い越し額合計+157億ユーロと概ね釣り合うイメージだ(図表2)。  【図表2】  PEPPの新規購入が停止している4月以降の4カ月間で見ると、ドイツ国債とフランス国債とオランダ国債で▲177億ユーロが売り越しされている一方、イタリア国債とスペイン国債とギリシャ国債で+160億ユーロが買い越しされている。  これら5大国(ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダ)の国債を売買することでバランスシート規模を維持していることが分かる(これに加えてギリシャ国債なども買われている)。とりわけ「ドイツを売ってイタリアを買う」は鮮明である。  問題はこうした特定の加盟国国債を対象とする再投資を続ければ、ECBの資産購入を縛っている出資金比率(capital key)を逸脱するということである。

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