高まる企業の国内回帰論 「安い日本」に製造業は戻るか

2022年10月26日

ドル/円相場は政府・日銀の円売り・ドル買い為替介入と思しき動きを挟んで乱高下している。もっとも通貨当局の思惑を想像しても真実は分かりようもなく詮無きことではある。重要なことは、史上最大規模の介入規模にもかかわらず、その効果が短期のうちに搔き消されてしまうという現実をどう理解するか、であろう。  もちろん、介入実施前と比較して安価でドルを調達できた輸入企業にとってはメリットがあるのかもしれないが、やはりファンダメンタルズに逆らう為替介入の寿命は長くないということが改めて白日の下にさらされており、現状を俯瞰して理解する努力が改めて必要だと考えられる。  周知の通り、円売りを支えるファンダメンタルズの筆頭が貿易赤字である。長期的な視野に立てば、2012~13年頃を境として趨勢的に貿易黒字が稼げなくなり、そこから際立った円高・ドル安を経験しなくなっているのは明らかである(図表(1))。

「製造業、国内回帰」と報道も、その背景には

 今年の円安相場を駆動しているのが内外金利差の顕著な拡大であるとしても、莫大な貿易赤字が意味する「円を売りたい人の方が多い」という客観的な事実から目を逸らすべきではない。貿易赤字が残存する限り、今後訪れるだろう揺り戻しとしての円高局面が過去1年の円安局面ほどの迫力を伴うとは思えない。  しかし、裏を返せば、こうした「安い日本」の状況を活かして国内への生産回帰が本格化した場合、輸出増加を背景として貿易赤字が一段と縮小し、需給面での円売り圧力が和らぐという展開も描くことはできる。実際、そのような期待混じりの報道も散見され始めている。

WEDGE Online(ウェッジ・オンライン)

 10月22日、時事通信は『製造業、国内回帰相次ぐ 円安で輸出強化の動きも』と題し、歴史的な円安を転機として製造業の国内回帰が相次いでいると報じている。もっとも、記事中では大手の生活用品メーカーやアパレル企業、音響機器企業、民生家電企業などの事例が紹介されているが、この「相次いでいる」という規模が日本経済全体をどれほど規定する話なのか確信は持てない。  そもそも報道されるのは著名な大企業ばかりで、実際はそれに付随して多くの中小企業が海外進出している。全ての企業群が大企業と同じ体力で動けるわけではないだろう。また、日本企業の海外生産移管は長い年月をかけて進んだものであり、これを国内回帰させる意思決定がなされても、やはり同じくらいの月日を要するはずだ。  なにより、日本企業がなぜ海外生産移管(国際収支上は対外直接投資)を進めたのか。その点を今一度思い返す必要がある。  その背景には断続的に発生する円高があったと思われるが、今年の円安だけで「もう円高にならない」という判断に至るのかは疑義がある。  例えばサブプライムショックのあった2007年に円高へ転じてから、12年までの約5年間、日本経済は超円高に苦しんだ。その後に対外直接投資の大きな波が到来している(図表(2))。それ以前にも円高は事あるごとに日本経済を襲い、特に自動車企業などは「円高との戦い」が社史に刻まれているはずだ。  そこまで慢性化して初めて海外生産移管という経営判断に至ったのであって、22年の円安が如何に苛烈であっても、単年の相場動向だけで戻るという話にはなるだろうか。今回の円安があまりに激烈であったため、多くの市場参加者が相応の調整を予想している。企業行動に変化が出るとすれば「相応の調整」がさほど起きなった場合だろう。  その時、日本企業は円高・ドル安はもはや「円相場(円買い)の押し目」という常識に切り替え、円安の不可逆性を認めた上で国内回帰に踏み切るかもしれない。しかし、その展開には時間を要するはずだ。

© 2009 Dr. straightのヘルスケア&リラクゼーションのブログ。 by https://www.stosakaclinic.com/
Powered by Webnode
無料でホームページを作成しよう! このサイトはWebnodeで作成されました。 あなたも無料で自分で作成してみませんか? さあ、はじめよう