2023年は円高の逆襲だ~日本株は軟調だが銀行株は復活の兆しも

2023年01月06日

欧米に比べれば微風だった日本の金融・資本市場

写真提供: 現代ビジネス

 昨年の米欧の金融・資本市場は、インフレと金利の見通しに揺れた1年間だった。株価と長期債券価格は一般的には逆に動くことで投資家のポートフォリオ全体の価格変動リスクを低減する効果が期待されているのだが、金融引き締めにより双方の価格が同時に下落するという「痛い年」になった。 【写真】ヘッジファンドがいくら仕掛けても「日本国債売り」が失敗する理由  それに比べると日本の金融・資本市場は微風のようなものだった。日経平均株価指数で見ると安値圏2万5000円台から高値圏2万9000円台のレンジで持ち合い推移を辿った。ただし円相場だけは大揺れだ。夏場にかけての大幅な円安と秋以降の円高への揺れ戻しで、FXトレーダーやヘッジファンドなどは円売りで儲けた益を秋以降かなり吐き出した者も少なくないだろう。  一方、近年急増している米国株価指数や世界株価指数連動の投資信託の購入層にとっては、年初来の米国株の下落はほとんど円安・ドル高で相殺され、下落の痛手は大方回避できた。  ところが12月20日に発表された日銀の金融政策の修正は、黒田総裁の「金融引締めではない」という強調にもかかわらず、日銀の「金融緩和の出口への布石」として市場参加者の多くが受け止めた。ドル円相場も136円台から131円前後まで一気に円高に戻す展開となった。  今年2023年も引き続き内外のインフレ動向と日米欧の金融政策が市場参加者の主要な関心事となり、相場は揺れ動くだろう。果たして日銀はこれまでの金融緩和の出口に向かって動くのか? その場合に日本株、円相場はどうなるか考えてみよう。

なぜ日銀は「金融緩和の修正」といわないのか

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 日銀は2016年以来、YCC(イールド・カーブ・コントロール)と称して短期金利をマイナス0.1%にすると同時に残存期間10年物国債利回りを一定レンジ内に収める金融緩和を行ってきた。そのレンジは何度かの変遷を経て、±0.25%となっていたわけだが、12月20日に±0.5%に拡大された。これはレンジの拡大という一種の柔軟化であって、レンジの上方修正ではなく、引締めには相当しないというのが日銀の主張である。  しかしほとんどの市場参加者やエコノミストは、1)発表以前に10年物国債利回りが0.25%の上限に張り付き、期間10年前後の他の国債利回りと比べて低くなる「イールドの歪み」が生じていたこと、2)レンジ修正後に利回りは0.40~0.50%の水準に上がっていることなどから、事実上の「緩和の修正」と受け止めている。  なぜ黒田総裁は「金融緩和の出口に向かう一歩ではない」と強調したのか? この点については例えば発表後の講演(12月26日、日本経団連審議員会における講演)の中で以下のように述べている。  「(日銀の金融政策は)価格の穏やかな上昇、売上・収益の増加、賃金の上昇、消費の活性化といった形で、経済の好循環が実現し、定着することを目指している」。しかしそうした状況にまだ十分なっていないため金融緩和の継続が必要だと語っている。  また今の日本の景気動向自体は国内に特段のリスク要因はなく、低成長ではあるが底堅い。しかし米国では高インフレを鎮静化するための急速な金利引き上げが、今後インフレ鎮静化の代償として景気の後退(その程度はともかく)をもたらすことはエコノミストのほぼコンセンサスだ。  欧州ではエネルギー供給のボトルネックから既にインフレ下の景気後退が始まっている。中国も不動産バブルの崩壊に加え、ゼロコロナ政策からの急転回で新型コロナ感染爆発が進行中であり、今年2023年の海外景気はどう見ても不振が予想される。  その結果、海外の景気後退が日本に波及し、日本も景気後退になる可能性は決して低くない。そうなった場合に、もし昨年12月の日銀の政策変更が「緩和解除への一歩」として受け止められるならばどうなるか。世界景気後退リスクを目前にしておきながら「緩和解除」に踏み出したとして、日銀の景気判断のまずさを問われることになるだろう。そうした事態は日銀としては避けたいはずだ。  筆者自身は、0.25%程度の10年物国債利回りの上方微修正が景気動向に与える影響は、ゼロとは言わないまでも非常に小さいと判断している。そもそも金融政策とは実質金利(=名目金利-インフレ率)を低下させることで経済活動にプラスの刺激を与えるものだ。  図表1  図表1が示す通り、日本でも足下のインフレ率上昇の結果、10年物国債利回りで見た実質金利水準はマイナス2%台とかつてない大幅なマイナス水準だ。YCCの名目0.25%程度の上限引き上げでこの金融緩和効果が減殺されるはずがない。  そうした観点から筆者は以前の論考(「ヘッジファンドがいくら仕掛けても『日本国債売り』が失敗する理由」2022年9月10日)で「現下の日銀の金融政策を全面的に支持しているわけではない。YCCとして行われている10年物国債の利回りレンジの設定も、もっと柔軟化した方が良いと考えている」と述べた。したがって今回の日銀の修正に違和感はない。  一方、日銀の政策修正を「市場の圧力に屈した」とか「日本国債売りを行ったヘッジファンドなどの勝利」とか書くメディアの記事も目に付くが、上限0.25%程度の微修正を「市場の勝利」などと囃すのは控えめに言っても子供じみていると感じている。

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