FRBの利上げ期間「長期化観測」高まる、景気後退・株価下落リスクの行方
2022年11月15日
11月10日、米国の10月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比7.7%上昇したことが明らかに。市場参加者は短絡的に「FRBの利上げ打ち止めが近い」と曲解し、株価が大幅反発した。しかし、米国の金融引き締めの遅れは深刻だ。CPI発表後、複数のFRB関係者は、「インフレ鎮静化のために金融引き締めを続ける見解」を改めて示した。金融引き締めが長引くリスクとして、新興国の経済と金融市場への打撃が懸念される。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫) ● 米国では企業業績の悪化への懸念が本格化 米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利の引き上げ期間が、主要投資家の予想以上に長引きそうだ。特に、11月の連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見でパウエル議長が「インフレ鎮静化は道半ば」と述べたことは大きい。 11月10日、米国の10月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比7.7%上昇したことが明らかになった。市場予想を0.2ポイント下回った。また、9月(同8.2%)からの上昇率は鈍化した。それでもなお、インフレ率は依然として高い。 また、改善ペースは鈍化しつつあるが、米国の労働市場は過熱気味に推移している。FRBにとって、2%の物価目標達成は長い道のりといえる。 FRBによる金融引き締めは長引くものと考えられる。それによって金利には上昇圧力がかかり、米国は景気後退に陥るだろう。その結果、世界経済を支えてきた米国では企業業績の悪化懸念が本格的に高まり、株価の調整圧力は強まりやすい。新興国からの資金流出も加速し、世界の実体経済と金融市場の先行き懸念がさらに高まる展開が予想される。
- 米国の金融引き締めの遅れは深刻 FRBの金融政策運営を考える上で最も重要なことは、2%の物価が上昇しているにもかかわらず、引き締め開始が遅れたことだ。結果的に、FRBはより長い期間にわたって政策金利を引き上げなければならなくなっている。 2021年11月末までFRBは、物価上昇が一時的、という誤った見方を続けた。その後、22年3月にFRBは利上げを開始した。さらに、5月以降、パウエル議長は景気の軟着陸(ソフトランディング)ではなく、多少の痛みを伴う「"ソフティッシュランディング"は不可避である」との見方を強め、従来の3倍のペースで追加利上げを行った。 本来であればFRBは早期にインフレ鎮静化に取り組まなければならなかった。しかし、それが難しかった。背景には、リーマンショック後の、投資家や消費者などが「景気が悪化すればFRBが配慮する」といった思い込みを強めたことがある。 また、13年の「テーパータントラム」(量的金融緩和の縮小=テーパリングに対する懸念により、金融市場がかんしゃく=タントラム)のように、FRBの早急な政策修正によって世界の金融市場が急速に不安定化したこともある。 引き締めの遅れによってインフレ鎮静化は難航している。上昇のピークは過ぎたとみられるが、米国の物価水準は高い。コロナ対策としての失業保険の特例措置などによる一時的な貯蓄の積み上がりや、労働市場の過熱による賃金上昇によって需要が押し上げられた。 さらにウクライナ危機の発生も加わり、世界全体で供給が不安定化している。企業は人件費などコストの転嫁を進めた結果、米国では賃金インフレが進んだ。 そうした状況下、G7の声明などでFRBが金融引き締めペースを調整する可能性が示唆されると、市場参加者は短絡的に「FRBの利上げ打ち止めが近い」と曲解した。11月10日の米CPI発表後、株価が大幅反発したことからもそうした投資家の考えがうかがえる。それは金融引き締めの効果を弱める。 その状況を解消するために、CPI発表後、クリーブランド連銀のメスター総裁など複数のFRB関係者は、「インフレ鎮静化のために金融引き締めを続ける見解」を改めて示したのだろう。