IMF、 世界経済の「最悪はこれから」 英減税政策を再び批判
国際通貨基金(IMF)は11日、最新の世界経済見通しを公表し、「最悪はこれから」だとした。また、物価上昇を助長すると警告していたイギリスの減税政策を、改めて強く批判した。
IMFは、経済成長の安定を図る国際機関。この日の見通しでは、ウクライナでの戦争が世界中で物価を押し上げていると説明した。
そして、世界経済は悪化しており、「最悪の時期はこれから来る」と警告。「多くの人は、2023年にリセッション(景気後退)を感じるだろう」とした。
IMFはまた、この経済的混乱を人々が切り抜けられるよう、各国政府と中央銀行が協力する必要があるとした。
IMFのピエール=オリヴィエ・グランシャ調査局長は、「運転手が2人いて、それぞれがハンドルを握っている車を思い浮かべてほしい。運転手の1人は左に、もう1人は右に行こうとしている」とBBCに説明。
「片方は中央銀行で、経済を冷やし、物価上昇を和らげようと努めている。もう片方は、家庭を支えるためにもっとお金を使おうとしている。(中略)これでは多分、あまりうまくいかないだろう」と述べた。
IMFは報告書で、ロシアによるウクライナ侵攻によってエネルギーや穀物の輸出が制限されたことで、食料、暖房、燃料の価格が急騰する中、こうした出費が家計で大きい割合を占める貧しい家庭を直撃していると、IMFは説明。各国政府が物価上昇の影響から貧しい家庭を保護する必要があると指摘した。
また、ロシアのガスに依存する欧州諸国が特に大きな打撃を受けていると説明。その例として、ドイツの経済は来年は縮小すると予測した。
一方、ロシアの経済については、来年2.3%縮小すると予想。今回、予測対象となった国の中で最大の落ち込みとなった。
IMFのクリスタリナ・ゲオルギエヴァ専務理事は10日、世界銀行との会合で、中国の経済成長も、新型コロナウイルス関連の規制が続いているために鈍化していると説明。アメリカについては、金利上昇のマイナスの影響が出始めているとした。
また、各国が協力して行動することで「2023年に待ち受ける痛みを軽減する」ことができると主張。IMFは主要国に対し、たとえ経済成長にマイナスの影響が出るとしても、生活コストを引き下げるよう働きかけると述べた。
そして、各国が十分に努力をしなければ、「困ったことになる。インフレを暴走させるわけにはいかない」と警告した。
■イギリスの減税政策
IMFは、イギリスの減税政策「ミニ・バジェット(小さな予算)」については、経済成長の促進が目的だと理解でき、短期的にはそれが達成されるだろうと認めた。
しかし、減税によって物価上昇のペースが速まる恐れがあり、物価高騰に対する「戦いが複雑になる」との見方を示した。
IMFは、イギリスのクワジ・クワーテング財務相が先月23日に大規模な減税計画を発表すると、その計画は不平等を拡大し、物価上昇の圧力に拍車をかける恐れがあると批判していた。
経済に関して早期の警報を発する重要な役割も担っているIMFが、これほど率直な声明を出すのは異例だった。
英首相報道官は、「世界的な物価高にあって英国民を支援する」のが目的だと、減税政策の妥当性を主張。IMFの報告書については、「各国が直面している世界的な課題」を示したものだとした。
■イギリスのインフレ進行
IMFの見通しでは、イギリスのインフレ率は年内に約11.3%まで上昇し、ピークを迎える。インフレ率は、生活費が時間とともにどう変わるかを示す。
ユーロ圏ではスロヴァキアだけが、インフレ率上昇から脱すると予想されている。
イギリスの今後2年間の物価上昇率は平均約9%で、イングランド銀行(英中央銀行)の目標値2%をはるかに上回るとみられている。
イギリス経済は、今年は主要7カ国(G7)など経済先進国の中で最も速いペースで成長する見通し。しかし、来年は0.3%の成長にとどまり、ほぼ停止状態になると予想されている。
ただ、今回のIMFの報告書は、英政府が打ち出した減税政策を十分に考慮したものとはなっていない。
(英語記事 IMF warns rising prices will be worse in UK)